電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第159回

君は京都ベンチャーのアセット・ウィッツを見たか!!


~日本版エンジェルの創成を目指し新技術カンパニーを次々と立ち上げ~

2015/11/20

 1968(昭和43)年3月に京都大学工学部を卒業したその男は、同大学大学院に進み修士課程を修了する。その後直ちに松下電器産業に入社し、1980年11月には松下電子工業の半導体研究所の室長になるのだ。2001年3月に松下を退社し、翌年2月にアセット・ウィッツというベンチャー・プロデューシング・カンパニーを京都市南区に立ち上げる。

 その男の名は南部修太郎という。彼が立ち上げたアセット・ウィッツは日本版エンジェルの創成を目指し、独自コア技術を有する新事業創出やベンチャー創出を行うカンパニーだ。しかして外から支援するだけではない。これまでにスペクトラテック、ロスネス、ノベルクリスタルテクノロジー、Eサーモジェンテックなど、数社のベンチャーカンパニーに出資し、あるときには経営再建や資金調達にも参画しているのだ。

アセット・ウィッツ 代表 南部修太郎氏
アセット・ウィッツ 代表 南部修太郎氏
 南部氏はこれまでの歩みを振り返りこう総括する。
 「スペトラテックは創業時に出資したが、CDMAを使った小型脳機能計測装置の事業化に成功し、現在この分野で世界をリードする注目企業である。またロスネスはパナソニックからのスピンオフベンチャーで、創業初期に出資し、社外取締役として資金調達や海外大手企業との共同開発契約締結に貢献した。この会社は現在IPOを準備中だ。NPOとして活動しているHAB研究会ほか、幅広いネットワークを有しており、多くの新規事業開発を夢見る人たちが私のところを訪れてくる」

 最近の出資案件として面白いのは、Eサーモジェンテックというベンチャーだ。南部氏はこのベンチャーに、コア技術開発の初期からプロジェクトリーダーとして参画し、基本特許を獲得している。Eサーモジェンテックは、世界初のフレキシブル構造熱電発電モジュールを開発、現在、廃熱利用のIoT用自立電源を実現するデバイスとして国内外の注目を集めており、近く量産化に向けて増資を行う計画である。このベンチャーの代表取締役には、現在は南部氏が就任しているが、事業発展に伴い次の世代の経営者にその役を譲るだろうとしている。
 つまり南部氏はあくまでも日本版ベンチャーの立ち上げ屋なのだ。ノベルクリスタルテクノロジーはタムラ製作所からのカーブアウトベンチャーであるが、このベンチャーの創業にも貢献し、かつ創業時に出資し社外取締役に就任した。このベンチャーは酸化ガリウム半導体ウエハーを初めて事業化するものであり、次世代超高耐圧パワー半導体の有力候補として期待を集めている。

 「若い頃のことであるが、パナソニック時代に、もうだめかと何度も思いながらも諦めず、色々な人に助けられ幸運にも恵まれて、携帯電話用ガリウム砒素デバイス事業を作ることに成功した。それは発展し一時期は年商600億円の事業に発展した。夢を実現させたいという願いは技術者であれば誰でも持っている。アセット・ウィッツを立ち上げた最大の理由は、時代の閉塞感を打ち破る若者たちを育てたかったからだ」(南部氏)

 南部氏はこれまでに岡山県立大学、京都大学の非常勤講師、名古屋大学の客員教授などを歴任し、若い人たちにも多く接している。それゆえに若者の夢を具現化するための知恵を授けたいとの思いが強い。また公的活動として石川県産業創出支援機構の事業化支援委員会委員、NPO法人高周波・アナログ半導体ビジネス(HAB)研究会の理事長、一般社団法人日本電子デバイス産業協会理事などの任にあり、こちらにも多くの力を割いている。

 「京都という街に拠点を構えたのは理由がある。この街は古くて新しいのだ。長く都が置かれたために伝統文化が残っている一方で、新しいベンチャーを多く輩出している。私が所属する日本電子デバイス産業協会も、国内最大級の専門カンファレンスである『電子デバイスフォーラム京都』を連続して開催している。京都は今後電子デバイスのコアとなる街になっていくだろう。私は京都にあってこれからも情報発信し続ける。そして、年商50億~100億円に育つ可能性がある事業であれば、全力を挙げてサポートしていくだろう」(南部氏)


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報 社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長 企画委員長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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