キヤノン(株)の半導体用露光装置事業は高シェアを誇るi線を主力に、ここにきてKrFでもシェアを伸ばしている。次世代露光分野では、EUVの対抗技術としてナノインプリントリソグラフィー(NIL)の事業化に注力している。事業基盤は以前にも増して強固なものとなりつつある。同社で半導体露光装置事業を統括する武石洋明氏に、足元の事業環境および、今後の事業計画について語ってもらった。
―― 15年度(15年12月期)の販売計画を引き上げました。
武石 期初段階では計64台の販売を見込んでいたが、第3四半期(7~9月)決算にあわせて、これを80台に上方修正した。それぞれi線が50台から59台に、KrFを14台から21台に引き上げた。
―― 販売計画を引き上げた要因は。
武石 デバイス別ではメモリー、イメージセンサー、高周波フィルターなどの電子デバイス各社の投資が活況で、これが主に修正要因となっている。メモリーはDRAMが20nm世代の立ち上げにより装置需要が活発であったほか、NANDも主要メーカーを中心に3D-NAND向けを含め受注が拡大した。高周波フィルターはSAWやFBARなどが中心で、携帯端末の多バンド化などによる需要拡大を受けて、供給メーカー各社が生産能力を増強しており、i線ステッパーの牽引役の1つとなった。一方で、ロジックやパワーデバイス関連は例年に比べて、やや力強さに欠けるという印象がある。
―― 市場シェアを含め、i線の事業環境について。
武石 引き続き、i線では市場シェアの7~8割は獲得できている。当社のi線事業はメモリーなどのメガファブ向け、イメージセンサー向け、パッケージ向け、パワーや高周波フィルターを中心とする小口径ウエハー向け、といったかたちでほぼすべてのエリアをカバーできていると考えており、今後もシェアの維持・向上に努めていくつもりだ。
―― パッケージ向けのi線ビジネスの状況については。
武石 装置受注という観点では非常に力強いかといえばそうでもないが、FOWLP(Fan Out Wafer Level Package)をはじめとする今後の先端パッケージの本格量産に備え、安定した引き合いを得ることができている。台湾系企業では採用を広げることができており、本格量産時にはまとまった規模での装置販売が期待できると思う。
―― KrFはシェアが伸びている印象を受けます。
武石 ようやく競合他社と勝負できる製品を出せたことで、メモリー分野を中心にシェアを拡大することに成功している。KrFのマーケットに関しては、3D-NANDの成長機会もあり、今後も堅実な市場環境が期待できるはずだ。
―― 16年以降の市場環境について。
武石 正直なところ、今年の後半から来年にかけて、調整局面に入ると見ている。これが来年の後半に回復するのか、年間通じて厳しい状況が続くのか、意見が分かれるところだが、今後の動向を注視しているところだ。DRAM投資は一服し、NANDも市況次第というところがある。ファンドリー/ロジックも足元の投資環境は力強さが欠けており、当社としては今後、イメージセンサーや高周波フィルターといった投資環境の明るい分野で業績を下支えできればと思っている。
―― 最後にNILの進捗状況を教えて下さい。
武石 コンタミなどのデフェクトコントロールに関しては、かなりのところまで解決できており、技術開発は大きな進歩を見せている。並行して、社内でNIL用マスクのレプリカ複製装置の開発も進めており、サプライチェーンの整備に向けた仕掛けづくりも着々と進めている。最終的にはマスクショップが手がけることになる領域だと思うが、我々が率先してNILを取り巻く環境整備を進めていければと思っている。
(聞き手・本紙編集部)
(本紙2015年11月19日号8面 掲載)