―― 横浜のご出身と伺っています。
飯田 父の仕事の関係で横浜市で生まれた。大学で生産工学を学び、卒論テーマは水晶発信器であった。卒業後は富士通プログラム技研に入社し、銀行向け大型コンピューター組み込みソフトの仕事に3年間従事した。
―― その後ロームに入社し、回路設計に注力されますね。
飯田 ミックスドシグナルやレンズモータードライバー、着信メロディーICなど様々な仕事をさせていただいた。回路設計に足掛け12年間勤務し、その後、社内で新テクノロジーの部署を作ろうという動きに呼応し、新規開発に取り組んだ。韓国デザインセンターの立ち上げにも尽力し、マーケットの勉強もさせていただいた。2015年6月付でLSI商品開発本部の責任者となり、様々な新規のLSI開発およびマーケティング調査などを手がけている。
―― かつて在籍していた富士通と比較してロームはどんな社風ですか。
飯田 「部品だけで食っていく覚悟」がある会社だと切に思う。総合電機や大手通信会社にはない社風だ。富士通では当時のGマイクロやiトロンなどの設計思想を学ぶことができ、これが現在にも役立っている。
―― LSI商品開発本部の方向性は。
飯田 ロームのLSI事業はこれまで広角打法で広く打ち分けてきたが、今後の半導体の世界ではやはり専門性の強いチップに集中する会社が勝っていくと思う。それだけにロームとしても一定の方向性を定める必要がある。今は(1)電源、(2)モーター、(3)センサー周りを勝負玉として、それぞれにもっとフォーカスしていく製品を考えている。
―― 電源は得意のアナログ技術ですね。
飯田 そのとおりだ。今ロームのLSI商品開発には約500人のエンジニアがいるが、そのうち8割以上はアナログの専門家であり、特にカスタマイズに強い。スマートフォン(スマホ)向けにはカメラモジュール向けオートフォーカスレンズドライバーや手ぶれ防止LSI、各種センサー、リチウムイオン電池向け充電ICなどでシェアを高めている。今後、拡大が期待されるワイヤレス給電やUSBパワーデリバリーなどのデバイス開発も強化していく。
―― モーターやセンサー周辺も重要です。
飯田 かつてのCD-ROMやフロッピーディスクの時代においては、このモーター向けはまさに世界を制覇した。現在でもプロセッサーやFPGAなどの空冷ファンモーター向けに強い製品を持っている。ロームの場合、SiCパワー半導体を社内に持っており、大電力制御に強いため、今後はEVや燃料電池車向けの製品開発に力を入れる。また車のワイパーやロボット向けのモーター、アクチュエーターの制御ICにも注力したい。MEMSセンサーも独自の技術を持っている。スマホ向けの気圧センサーや光学センサーなども拡大する。カーオーディオを含めた車載向けのLSIは現在全体の32%を占めている。今後は本丸ともいうべき駆動系、エンジン周辺の比率を上げ、全体を40%にしていきたい。
―― IoT、M2M向けも見ていますね。
飯田 これは時代の要請だろう。サーバールームや基地局の電源装置は増える一方だ。このため7月にアイルランドのパワーベーションという会社を買収した。これはデジタル電源のカンパニーで、自動チューニング技術などデジタル電源ならではの強みを持ち、今後の拡大が期待できる。無線通信ICは、子会社のラピスセミコンダクタが日本企業で唯一開発を手がけている。特定省電力無線のWI―SUNも本格化する。これに向けたチップの開発はすでに終了しており、モジュール化も含めたサポート体制の強化を進めている。
―― 新規の開発の比率は上昇しますね。
飯田 この6年間を総括すれば、半導体の新規開発比率は平均60%にまで高まっている。もっとこの比率を上げていきたい。デザインルールは、BiCDMOSにおけるメーンストリームは0.13μmであり、90nmまでこなせるが、現状でこの分野では世界最高技術だと思っている。
前工程を海外に展開する意志はまったくない。高耐圧プロセスなど特徴あるプロセスを磨き、短納期に対応するためには、ノウハウと技術が蓄積された国内量産拠点が一番良いと思っている。
(聞き手・特別編集委員 泉谷渉)
(本紙2015年11月5日号1面 掲載)