商業施設新聞
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No.530

行列のできる住宅街の中華料理屋


若山 智令

2015/11/2

 以前住んでいた家の近くに、地元で評判の中華料理屋がある。私はここのチャーハンが日本一美味しいと思っていて、小学生のころから家族や友人らとよく行った。先日、約10年ぶりにその店に行ったのだが、店の佇まいや雰囲気など当時のままで、客の入りも良く、今もなお繁盛していた。

 街の中華料理屋なので、宣伝費をかけているわけでもなく、おしゃれなホームページがあるわけでもない。なのに、外に行列ができるほどの賑わいだ。周辺の飲食店はほとんど残っていなかったが、ここだけはいまだに健在。聞けばもう25年以上営業しているという。味はもちろんだが、それ以外にお客さんを惹きつける何かがあるのか考えてみた。

 まずは立地。地元では比較的交通量の多い幹線道路沿いに面しているが、駅からは離れている。専用駐車場もないため、客は徒歩か、近くのコインパーキングを使わなければならない。なので、この店は地元客が多いと推測できる。確かに周辺は住宅地であり、マンションや団地などが多い。店に訪れたことがない人も、住宅地にポツンとある中華料理屋に行列ができていれば少しは気になる。私も初めてその店に行ったのは、父がその行列が気になったからと説明されたことを記憶している。

25年以上続く中華料理屋
25年以上続く中華料理屋
 次に店構え。これは「男性は好みそうだが、女性が1人で入るには少し抵抗があるかもしれない」という感じだろう。外装はお世辞にもキレイとは言えず、よく言えば「昔ながらの」と表現するのが適当である。店内はカウンターに7~8席、座敷が2カ所で、15人も入れば、ぎゅうぎゅうになってしまう。「こういう店のほうが美味しいはずだ」と思う人も多くいるだろう。ここは正にその通りで、期待を裏切らない。

 店主は主に調理を1人で担当し、その他の業務は別の店員が1人で対応している。これは今も昔も変わっておらず、料理が提供されるのは少し時間がかかる。これも美味しく食べるための修行だと、ただひたすら待つしかない。そして、そのスピードが遅いため、席がなかなか空かず、行列ができるという仕組みを作っているのかもしれない。だとしたら、狭小店であるがゆえの成功例だ。これも店主の戦略だとすれば、まんまとその戦略にはまってしまった。

 メニューは、ラーメンやチャーハン、大皿料理など定番のものしかない。以前あった海老チャーハンがなくなっていたのは少し残念だった。個人的には復活してもらえるなら、ぜひしてもらいたいと心から願っている。飲食店の基本である味は文句なく、自分の中のランキングは1位を継続している。

 飲食店は2年で大半が閉店するという時代のなか、こうして生き残る個人店は少なからずある。何が成功策であるか、明確な答えを見つけるのは簡単なことではないが、この店に関しては味と、口コミが大きいのだろう。味はもちろんのこと、徒歩圏内の地元客をしっかりと掴み、多世代のお客さんが来るからこそ、長きにわたって営業を続けることができる。

 年齢を重ねると同時に、かつて行っていた店が閉店してしまうケースがよくある。この店のように、今でも元気に営業していると、やはり嬉しくなる。後は、海老チャーハンが復活してくれれば、何も言うことはない。
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