電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第141回

東芝ナノアナリシス(株) 代表取締役社長 中村健二氏


世界唯一の「3DAP」持つ分析会社
原子レベルで3D構造解析

2015/10/16

東芝ナノアナリシス(株) 代表取締役社長 中村健二氏
 半導体や液晶の微細構造解析や材料分析を得意とする東芝ナノアナリシス(株)(川崎市幸区小向東芝町1、Tel.044-549-2981)。もともと東芝グループの受託分析会社としてスタートしたが、2006年にジャパン・エア・ガシズ(株)(現・日本エア・リキード(株))が資本参加して以降、材料ガス分析という新たな得意分野も加わった。日本エア・リキードの連結対象子会社となった現在も、従来の得意分野に加え、医薬やエネルギー関連の受託分析にも積極的に取り組んでいる。先ごろ代表取締役社長に就任した中村健二氏に話を伺った。

―― 貴社のプロフィールを。
 中村 世界トップレベルの解析・分析技術を保有しており、半導体・電子部品や電池、素材やエネルギー関連部材に至るまで、幅広い分野の受託分析・解析を手がけている。半導体の材料分析や構造解析を得意としていることもあり、四日市、加賀、石川など東芝グループの半導体工場や液晶工場(現・(株)ジャパンディスプレイ)内に拠点を有するが、日本エア・リキードの資本参加以降は日本エア・リキードの研究拠点である、つくばにも拠点を設けている。

―― 分野別売上比率は。
 中村 半導体が82%、液晶が3%、その他が15%となっている。半導体では東芝以外のメーカーからの引き合いもある。その他では太陽電池、リチウムイオン電池の分析、環境分析などが挙げられる。

―― 日本エア・リキードの資本参加はどんな変化をもたらしましたか。
 中村 ガスの分析という新たな得意分野が加わった。エア・リキードグループが米国に有する分析拠点とも交流することで、米国の情報も得られるようになった。

―― 分析・解析の中で特に差別化できている技術は。
 中村 ナノ構造解析、薄膜の元素分析・マッピング、クリーンルームなどの極微量成分分析、無機および有機成分分析、信頼性評価、デバイスの故障解析などを得意としている。なかでも最も強みとしているのが、3次元アトムプローブ(3DAP)を活用したナノ構造解析だ。原子の配列を3次元的に観察することが可能で、世界でも分析会社としては当社しか保有していない。TEM(透過型電子顕微鏡)では分からなかった3次元の原子レベル構造の解析が可能だ。

―― 測定原理は。
 中村 先端の曲率半径が50~100nmの針状に加工した試料を用い、そこに10kV程度の正電圧をかけると、試料の最先端が高電界となり、表面の中性原子がプラスイオン化して脱離する「電界蒸発現象」が発生する。そのプラスイオンを2次元検出器で検出することで原子配列が特定でき、また検出器に到達するまでの飛行時間(TOF)からイオンの種類を同定できる(イオンの重さによってTOFは異なる)。検出された順番にイオンを並べて、3次元の原子分布を得るという原理だ。SIMS(2次イオン質量分析法)並みの感度とTEM並みの空間分解能を併せ持ち、試料の3次元構造を原子レベルで解析できる。

―― 具体的な用途は。
 中村 金属や磁石など導電材料はもちろんだが、半導体材も分析でき、CMOSデバイスの拡散層不純物の3次元分布、LEDの量子井戸層中のInの組成分析のほか、最近ではFinFETの解析などでも活用されており、活躍の場は広がっている。

―― 試料を微小な針状に加工する技術がカギですね。
 中村 微小なTEM用サンプルをFIB(集束イオンビーム)で加工する技術に長けており、3DAP用試料も容易に作製できる。

―― 先端に電界を集中させてプラスイオンを飛ばす原理は絶縁体にも使えますか。
 中村 パルスレーザーを照射してイオン化をアシストすれば、絶縁体でも可能だ。

―― 電子デバイス以外の分野からの受託も増えているようですね。
 中村 医薬やエネルギー分野からの引き合いが増えている。医薬系では、ナノマテリアルの環境分析を応用し「粒子封じ込め性能評価」という、医薬品製造現場での薬剤漏れチェックを手がけている。高活性の抗がん剤などを製造する工場で環境中に薬剤が漏れないかどうかのチェックだ。もちろん本物の薬剤は使えないので、無害な薬剤の粒子で代替する。無害な粒子を噴霧し、粒子をラボ内に封じ込めて粒子がどう拡散するかを分析する試験で、製薬企業などからの依頼がある。
 エネルギー関連では、水素関連に注目している。エア・リキードグループが水素に注目していることもあり、当社も力を入れていきたい領域だ。実際、水素関連の解析や分析の引き合いも来ている。このほか、CIGS型など化合物系太陽電池の解析や、今後火力発電所で必須となりそうなCCS(二酸化炭素捕捉・貯留)材料の引き合いもある。今後も、こうした医薬・エネルギー分野での展開をさらに進めていきたい。

(聞き手・本紙編集部)
(本紙2015年10月15日号13面 掲載)

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