日本国内で一番「早寝早起き」の県はどこであろうか。もちろん東京や大阪ではないことは明らかだ。それは青森県である。平均的にいえば、夜の10時35分には就寝の床につき、朝6時19分には起きてしまうのだから、断然の数字であるといってよい。
こうしたところで育った子供たちは、当然のことながら超健康であり、中学3年男子の平均身長は166.6cmで全国1位。小学校6年の女子の平均体重は41.0kgで、これまた堂々の全国1位なのだ。
それはさておき、本州最北の地にあって有効求人倍率が低いということも事実であり、大型の製造業が根付いていかないのは恨みとは言えるだろう。ところがである。
「青森県下の工場立地はここにきて順調な推移となっている。2012年の工場立地件数は12件、13年は15件、14年は13件となっており、すでに今年は上期だけで8~9件が決定し、前年を超えてくることは確実だ。このため、有効求人倍率はこれまでにない最高の数字である0.94を叩き出している」
こう語るのは青森県商工労働部長の八桁幸男氏である。筆者は8月27~28日にかけて青森県誘致企業との懇談会に出席させていただいた。最近の企業立地状況について講演を行い、その後に様々な企業とのフリートーク、さらには懇親会に参加させてもらった。先ほどの八桁部長の談話はその懇談会における席上のことであった。
名物の田んぼアートの向こうに青森オリンパスの新工場が立ち上がりつつある
青森エリアにおいては、大手企業もここにきて工場増強をかなりのピッチで進めている。黒石に拠点を持つ青森オリンパスは、医療用内視鏡関連製品の強化を図るべく新工場を建設中であり、来春には立ち上がる。生産は3割増となる見込みだ。コネクター大手の日本航空電子の現地法人である弘前航空電子も新工場の立ち上げが完了し、現状で設備は2分の1が埋まっている。これまで海外で行っていた生産を国内内製に切り替えつつあり、順次設備を入れていく考えだ。富士電機津軽セミコンダクタの生産は、マイコンが3分の1、パワー半導体が3分の2となっており、現状はほぼ8割稼働である。今後は圧力センサー、加速センサーなどのセンシングデバイスを伸ばそうという考えであり、状況に応じて増強を考えているというのだ。
「当社は紳士スラックスの委託加工ではおそらく国内No.1の存在だろう。ここにきて生産は一気に国内回帰している。中国については給料がバカ高くなり、とてもではないが採算割れなので撤退した。その代わりにベトナムやミャンマーに生産をシフトしたが、これまた人件費は上昇を続けており、しかも生産能力は日本に比べて格段に低い。このため、近い将来にこちらも撤退を考えており、むしろ国内を強化したほうが良いと思っている」
こう語るのは木造奥田縫製の統括取締役の三上敬氏である。出席企業の多くから、こうした国内設備投資回帰の声が上がったことにはかなり驚かされた。やはり円安の長期化が影響しているのであり、また一方で日本のオペレーターレベルの生産性が世界一であることの証左であるのかもしれない。
この懇談会には地元のユニーク企業も多く出席していた。サーミスターで知られる大泉製作所の協力工場であるセンサ工業、半導体後工程の設備専門のサワダSTB、角度センサーで有名な多摩川精機の八戸事業所、エンコーダーセンサーの三沢エンジニアリング、さらにはダイヘン青森、キヤノンプレシジョンなどの企業が意欲的な発言をされていた。彼らは青森における生産は気候の点でも人材という点でもうまくいっているとしながらも、かなり人不足が目立ってきたことを懸念する。
たった2日間の青森訪問であったが、やはり日本の製造業を取り巻く環境変化が1つの縮図として浮き上がってきた。すなわち有効求人倍率上昇に見られる人不足、そして円安長期化に伴う国内設備投資回帰などがそれである。ちなみに青森市の年平均気温は10.5℃であり、要するに冷房設備はほとんど必要ないのであるからエアコンコストは安くなる。公衆浴場も人口10万人あたりの数が鹿児島を押さえて全国1位であるから、健康な安らぎの時を過ごすことができる。ビタミンCたっぷりのりんごの収穫量は第2位の長野県のほぼ3倍であり、もちろんぶっちぎりトップである。こうした環境を好む企業は年々増えており、青森への企業進出は徐々にではあるが確実に増え続けているのだ。
さて、今宵はレトロな時代を思い返して淡谷のり子の「別れのブルース」でも聞きながら、家宝とも言うべき棟方志功の板画を眺めながら熱いコーヒーを淹れてみようか。そして、太宰治の『斜陽』を読みながら、寺山修司の「天井桟敷」のビデオも見て、頭を狂わせようかと考えている。
今列記した方々はみな青森が生んだピカピカ人財なのです!!
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泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報 社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長 企画委員長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。