「これからの日本にとって、何よりも必要なことは女性力ということです。日本が女性の労働参加率をG7レベルに引き上げれば、1人あたりのGDPは約4%増になるのです。日本国政府は、2020年までに現在11.2%と低い割合にとどまっている女性管理職の比率を30%まで引き上げると言っています。明日のニッポンをつくる原動力は女性にかかっているとさえ言えるでしょう」
高らかにこう語るのは、金沢工業大学教授であり、北國銀行社外取締役でもある大砂雅子さんである。大砂さんは早稲田大学を卒業後、長くJETROに勤めキャリアを目指し、ソウル事務所の所長にまでなった女性である。働きながら、子供を育て上げ、しかも社会貢献、一流のポストを勝ち取ったことが、男である筆者から見ても眩しすぎるほどなのだ。
さて、彼女が「日本女性の経済活動と参画動向」というテーマで講演を行ったのは、韓国のイー・トゥデー新聞社の創刊5周年を記念した日中韓・国際カンファレンスの壇上である。ソウルのロッテホテルで開催されたこのカンファレンスは、まさに女性一色ともいうべきものであり、おそらくは400人以上の人たちが参加したが、その8割は女性であったと認識している。
「女性がどうして女性に関心を持つのだろう」といぶかしげにその様子を見ていたら、憧れる対象が男性とは限らないのだということに気がついた。そのことを隣に座っていた女性記者に興奮ぎみに話したところ、「本当にバカね。女性が化粧をして、ステキなデザインの衣装を身につけるのは、男性でなく女性に見せたいからなのよ」と言われ、仰天してのけぞった。まだまだ、自分は人生の訓練ができていないと深く感じ入ったのである。
日中韓の新聞社がソウルでMOU契約を結んだ(一番右は筆者)
この日中韓・国際カンファレンス開催に先立ち、韓国のイー・トゥデー新聞社、中国経済日報、そして我が産業タイムズ社(電子デバイス産業新聞を発行)の3社によるMOU契約が締結された。日中韓の現状は政治的にはギクシャクしており、とても友好的とはいえない状況だ。それにもかかわらず、日中韓の3つの新聞社が相互協力を誓い、共同で国際カンファレンスを開催するということは、今日時点においては実にサプライズなことなのだ。
中国経済日報を代表して契約に臨んだのは、副編集長の孟さんというキュートな女性であった。
「中国経済日報においては、重役が9人いますが、そのうち女性取締役が2人もいるのです。中国は男女平等が徹底されている先進国だと言えるでしょう」(孟さん)
このカンファレンスで冒頭に講演した、中国の三元食品の副社長である呂さんの講演は実に面白かった。時代の舞台は中国の女性たちに回ってきており、ベンチャー投資、資産管理からIT科学技術、先端製造業まで中国の最高の女性たちが従事しているという主張は、多くの聴衆の共感を呼んでいたようだ。何しろ、中国女性が企業経営の階層のうちで占める割合は51%、堂々の世界一なのだ。さらに、中国の女性企業家の人数は中国総企業家の人数の25%もあるという。ちなみに、中国のお金持ち(億万以上の資産を持つ)は109万人もおり、そのうちで女性のお金持ちは40%もいるというのだ。中国女性の就職率は何と73%であり、おおげさに言えば、彼女たちが中国経済の核を支えているともいえるのだ。
「こんなに女性たちが強い国では、泉谷クンは生きていけないかもしれない」と思いながら多くの講演を聞いていたが、日本にも見習うところがあるなぁ、と感心させられた。しかして、いいことばかりではないのだ。家庭を持ち子供を育てるがゆえに、中国の職業女性の家庭で働く時間は男性たちの22.8倍と凄まじい。同じ職業の女性たちの給料は男性の77.8%にとどまっており、50%以上の女性たちは求職するとき、性の差別を受けたと感じるという。
カンファレンス終了後のレセプションには、パク大統領の映像によるお祝いが披露された。韓国産業資源省の大臣、さらには女性大臣も出席され、イー・トゥデーの創刊5周年およびこの日中韓・国際カンファレンスの意義を称えるコメントが相次いだ。筆者は、カンファレンスのイントロで「日中韓の政治情勢を乗り越え、相互友好の世論を作っていこう」と呼びかけた。少なかったが、深く頷く人たちもいた。
このカンファレンスは今後、北京そして東京で順次開催されていく見通しであるが、本紙が主催する東京カンファレンスのテーマは「男のみなぎるたくましさ」にしたいと切に思っている。
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泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報 社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長 企画委員長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。