商業施設新聞
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No.524

映画とライフスタイル


松本 顕介

2015/9/24

 「ライフスタイル」という言葉がすっかり定着した。一口にライフスタイルといってもその意味は意外と広いが、一つの解釈として「暮らしぶり」とも言い換えられる。昔、インターネットという便利なツールがない時代、外国の暮らしぶりを知るための最大のツールは映画だった。星の数ほどある映画の中で外国、特にアメリカの暮らしぶりが印象的だった3つの映画を紹介したい。

 まず1本目は「がんばれ! ベアーズ」。ウォルター・マッソー扮するバター・メーカー監督が弱小少年野球チームを次第に成長させていく物語だ。1976年公開だったが、当時、小学生で野球小僧だった私は、あの映画を観て衝撃を覚えた。まずグラウンドが全面天然芝だ。それもとてもふかふかな芝が敷き詰められている。当時、日本では後楽園球場が内野まで全面天然芝だったが、76年から全面人工芝となった。天然芝球場が敷設されているのは他球場の外野のみ。天然芝がある球場を見ても、ふかふか度も足りず、しかもいわゆる西洋芝でなく高麗芝が張られていたのか、冬になると黄色くなってしまっていた。日本の野球の頂点がそんなグラウンドであるため、アマチュアのさらに下に位置する地域の小学生のグラウンドは固い土のグラウンドと相場が決まっていた。

 それがスクリーンから見る向こうの風景には青々としたふかふかの天然芝がフィールドに広がる。何かのびのびとして自由に映った。当時、私のチームでは練習中に水を飲むのは御法度だったが、映画の中ではコーラを飲んでいた。それどころかチョコレートを食べたり、楽しくおしゃべりしたり、バイクでグラウンドを駆け回ったり、監督には生意気な口を叩くなど、まさにあり得ない世界。アメリカ西海岸のライフスタイルの憧憬だ。しかし映画を見ながら「ああ、自分ならエラーをしないのに」と思ったものだ。

 70年代が「がんばれ! ベアーズ」なら80年代は「バックトゥーザフューチャー」を挙げたい。もはや説明はいらぬ作品だと思う。特に主人公のマーティのスケボー、ナイキ、ダウンベストというファッションに驚いた。今のアメリカの高校生はこんなスタイルなのかと。公開の数年前にナイキ、ダウンベストを身にまとっていた自分としては、すでに終わったアイテムだったのに、えらくかっこ良かった。そしてピックアップトラックの荷台に捕まりスケボーを走らせ、道行く人に手を振る。何てカッコイイ世界なのだとショックすら受けた。

映画は示唆に富んでいる
映画は示唆に富んでいる
 ところで「バックトゥーザフューチャー2」の中で、1985年からタイムトラベルをして未来にやってくるシーンがあるが、それが今年、2015年10月21日だ。劇中では、履くと自動的にフィットするスニーカー、空を飛ぶ自動車などが登場する。いわばこうなりそうな未来予想図だが、残念ながら実現していない。宙に浮くスケボー『ホバーボード』らしき物が開発されたようだが、普及はしていない。
 ちなみに初めて観た時は気付かなかったが、映画の中で、主人公がタイムスリップする場所はショッピングモールの大型駐車場だ。当時、日本では郊外モールの駐車場はあまりお目にかかれなかったが、今では珍しくない。

 そして90年代は「ドゥザライトシング」。米国の公開は89年だが、日本公開は90年だった。ニューヨーク・ブルックリンを舞台とした多様な人種の対立をコミカルに描いた作品で、ラストはとてもメッセージ性に富む社会派作品。前述の2作品はアメリカの白人のライフスタイルだが、この作品はアフリカ系アメリカンの音楽、ファッション、カルチャーが興味深い。ヒップホップ、ストリートファションなど、見たこともない世界に釘付けとなった。

 映画の舞台となるピザ屋は、地域の老若男女が自然と集うオアシス的な位置づけというのがスクリーンを通して分かる。今で言えばカフェのような存在だ。今日、カフェは家、職場や学校に次ぐ第3の場所の「サードプレイス」などとも言われ、地域における存在感が高まっている。映画は何かと示唆に富んでいると改めて実感する。

 秋の夜長。そんな時は映画を楽しみたいと思う。最近、4DXなどハード面の進化が著しいシネコンで最新作を楽しむのもいいが、ゆっくり自宅で旧作を観るものまたオツだ。さて何を観ようか。
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