北陸新幹線開通により福井、石川、富山などのエリアは、観光誘致に拍車がかかっている。しかして、この経済効果は観光だけではない。東京からの便が良くなったことで、首都圏および関東エリアの大手、中小企業、ベンチャーの製造業の人たちは、ここに来て熱い視線で北陸を捉え始めたのだ。
NEDIAの齋藤会長(左)と
富山県の石井知事(右)
こうした状況下で日本電子デバイス産業協会(NEDIA)は、初の北陸エリアにおける電子デバイスフォーラムを富山で開催した。6月26日のことである。北陸新幹線開通により東京-富山間は2時間8分でつながる。この便利さは予想以上という人たちが多く、このフォーラムもかなり東京の人たちが参加することになった。
富山県下にはパナソニック・タワージャズセミコンダクターの魚津工場、砺波工場があり、半導体の一貫工場としての陣容を備えている。パワー半導体の世界的サプライヤーである東芝は、石川県に量産拠点の加賀東芝エレクトロニクスを持ち、同じくパワーデバイスで強みを持つサンケン電気も石川県下に3工場を擁している。
福井県には今や後工程サブコンの大手であるジェイデバイスが量産工場を構えている。また、富山にはぶっちぎりのシェアを持つゼオノアフィルムを量産する日本ゼオンがおり、半導体や液晶の樹脂材料に強い日産化学工業富山工場もある。富山臨海部にはこうした先端素材系の工場群が林立している。
そのほか石川には半導体製造には欠かせないベローズの大手である久世ベローズがいる。電子回路/半導体の設計アウトソーシングとして国内最大手の東京ドロウイングも石川に大きなデザイン拠点を持っている。電子部品大手の村田製作所もまた2015年度は過去最高の設備投資となる1500億円を投入するが、このエリアにある量産工場増強が主眼と見られる。
こうした様々な電子デバイス関連拠点が集積されている北陸エリアであるが、今後は首都圏、関東・甲信越に量産拠点を持ち、かつ狭隘化している電子デバイスメーカー、またその関連の装置・部材メーカーの次の量産拠点として北陸エリアが浮かび上がってきている。新幹線開通効果は、人の移動の早さだけではなく、情報の移動の早さも呼び込むのだ。
さて、今回の富山におけるフォーラムのプログラムは、実に興味深いものであった。日本ゼオン、日産化学、北陸電気工業の方々に実に意欲的な講演をしていただいた。いずれも富山県下に量産拠点を持っているメーカーである。日産化学は富山に第3工場まで持っており、最大拠点となっているが、今後新工場も考えたいとの意欲を示した。北陸電気工業は昭和18年に創業した電子部品メーカーであるが、ピエゾ抵抗型の圧力センサーの量産では先行した1社である。ガスメーターのガス漏れ検知センサーで名前を知られている。すでに圧力センサーの生産累計は4000万個を超えているのだ。
この電子デバイスフォーラムとやまは、ローカルエリアで行われるNEDIAフォーラムとしては過去最高の120人の参加者を得て開催することができた。筆者もNEDIA副会長で企画委員会の責任を持つ立場から、この場を借りて富山県庁および富山企業の方々に厚く御礼を申し上げたい。
フォーラム終了後の懇親会にも多くの人が参加し、多くの議論が巻き起こり、何という活況かと思うほどであった。実のところ、東京ではこうした熱い集まりがなかなか見られなくなっているのだ。富山県知事の石井隆一氏も開催地として歓迎の挨拶をされ、NEDIA会長の齋藤昇三氏とがっちり握手を交わしておられた。
会場に詰めかけた女性と話していたら、富山はとても過ごしやすい、として次のようなコメントをされた。
「富山県は子育てしやすい県として全国1位なのよ。日本で最大の敷地面積を持つファミリーパークなど多くの公園があり、子供たちが安心して遊べる遊び場がいっぱい。幼稚園、保育園、託児所もいっぱい。ここの住民は優しく、とても暖かいのです。台風は来ない。高波は来ない。地震は全国一少ない。だから、こんなに子育てに向いたところはないのよ。みんなで富山に住もうという呼びかけをしていきたいわ」
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泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報 社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長 企画委員長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。