電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第149回

国内ガソリン需要減退でも生き残る道はある!!


~三菱商事石油の鎌倉上社長は岩崎小弥太の「三綱領」精神重視~

2015/9/11

 「一番大切なことは世の中に貢献し、コンプライアンスを重視、貿易で世界の物を動かすということです。これは自分が三菱商事時代に心と体に叩き込まれた精神です。三菱商事の生みの親である岩崎小弥太の三綱領(所期奉公、処事光明、立業貿易)の精神・価値観は、今でも自分の中に深く根付いていると感じています」

三菱商事石油 代表取締役社長 鎌倉 上(かまくらのぼる)氏
三菱商事石油 代表取締役社長
鎌倉 上(かまくらのぼる)氏
 しみじみとこう語るのは、三菱商事グループの国内石油製品販売を担当する三菱商事石油代表取締役社長を務める鎌倉上(かまくらのぼる)氏である。三菱商事石油という会社は、三菱商事の石油リテール本部を分社して1990年1月に設立されたものだ。2002年3月には売上高3000億円、系列SS数1000店を突破した。08年3月には売上高6000億円を突破する。しかして同社もここに来て多くの事業再編を行っている。10年7月にはネクステージ4社を経営統合した。ダイヤ昭石と関西エム・シー・オイルが合併し、新生ダイヤ昭石が設立される。

 そしてまた、15年10月1日付で三菱商事グループの国内石油製品販売事業は統合され、新たに三菱商事エネルギーという会社が誕生する。これは、三菱商事の産業向燃料販売部門、三菱商事石油、エムシー・エネルギーに分散していた事業領域を集約し、規模の拡大を行い、競争力強化を目指すものだ。この新会社の指揮も鎌倉氏が執ることになる。新会社設立の意義について鎌倉氏はこうコメントする。

 「国内のガソリンは低燃費車の普及などによる需要減退傾向が継続しています。石油業界全体で適正な需要と供給のバランスが保たれることが重要です。そうした情勢下で新会社が発足しますが、統合後は売上高約8000億円(三菱商事石油の15年3月期売り上げは5846億円)に拡大され、年間約900万kLの石油製品を扱う規模となります。重要なことはメーンとなる石油事業の強化ですが、一方で新会社の社名『三菱商事エネルギー』にもありますとおり、水素をはじめとする新エネルギー事業や熱電供給事業など、様々なエネルギーを供給する総合エネルギー企業へ進化していきたいという思いが込められています」

 さて、鎌倉氏は東京都杉並区出身、一橋大学経済学部を卒業し82年に三菱商事に入社し、原油部の仕事に携わる。海外勤務も長く、ドーハ、バクダッド、アブダビなど重要エリアである中東の仕事を次々とこなしていった。10年には石油事業戦略室長、13年には原油部長となり、14年4月1日付で三菱商事石油の代表取締役社長に就任する。この会社としては7代目の社長となる。三菱商事時代を振り返って鎌倉氏は次のように語る。
 「いわば原油の中枢ともいうべきエリアである中東に長く勤務し、実に面白かったです。高度経済成長は石油というエネルギーが、しっかりとわが国の経済を支えていたからこそ成しえたのだと思います。三菱商事には派閥というものがなく、実に自由度の高い会社です」

 さて、世界の原油在庫は記録的な高水準となっているが、米国シェールオイルの生産減少と原油価格下落による世界全体での石油需要回復で、1月の最安値(1バレル45ドル)から6月には1バレル60ドル台前半まで約40%上昇した。しかしながら直近はギリシャ問題、中国の急速な景気減速と株価下落、新興国からの資金流出懸念などのリスクが高まり上値が抑えられ、一時的に1バレル40ドル台から30ドル台にまで後退した。こうした状況下で誕生する三菱商事エネルギーという新会社の門出は決して平坦なものではないのだ。

 「一番大切なことは、特約店様とのつながりです。当社と特約店様との関係は単に売り手、買い手という関係ではなく、1つのチームとしてともに石油業界で勝ち抜いていくという気持ちを共有しています。また、特約店様の経営者、現場責任者など各階層に応じた研修や交流会を全国レベルで開催しています。私も常に現場を訪問し、SSで働いているスタッフの皆様とともに議論を重ねています。こうしたなかで今年4月から新たにカーフロンティア事業部を立ち上げました。日々変化していく自動車関連事業、商品の動向について研究を重ね、新たなビジネスに挑戦して参ります」(鎌倉氏)

 また同社は、次世代エネルギーについても三菱商事と連携し、情報収集と取り組み方の協議を重ねている。水素エネルギーについては、4月に燃料電池実用化推進協議会に一般会員として入会し、事業参入の可能性について検討を行っている。水素ステーション単独ではなく、SSとの併設を常に念頭に置いているという。

 さて、鎌倉氏に今の若者に期待するか、という質問をぶつけたところ、次のような回答が返ってきた。
 「草食系であるとか、コミュニケーション力不足であるとか、現代の若者について様々な批判が聞こえてきます。しかして私は全くそう思いません。正直言って、私の時代よりも今の若い子の方がよっぽど勉強していると思います。また上昇志向も十分にあると思います。かつて岩崎小弥太はまだ若かったスタッフに向かってひたすらに奉公し、すべてのことを明確にし、この日本を貿易で立国させることが大切であると説きました。極東の小さな島国が生き残る道はこれしかないと考えていました。この『三綱領』の精神・価値観は今も三菱グループの若者たちに深く根付いていると思います」


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報 社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長 企画委員長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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