―― 中国企業の買収提案について。
薄井 2015年4月末に正式に中国の投資家グループからの買収提案受け入れを表明した。買収総額は19億ドルで、1株あたりの買収額は29.75ドルとなる。現在は当局の承認を得ている段階だ。買収完了時期はまだ決まっていないが、おそらく16年4月末までに終えられると見ている。
―― 中国資本受け入れによる影響は。
薄井 この買収により、従来の戦略やサポート体制が変わることはない。例えば、成長が見込まれる分野への顧客ニーズを満足する製品開発をさらに加速し継続する。全世界のサポート拠点や生産拠点が閉鎖されることも一切ない。
もともと当社は中国とは結びつきが強い。消費地として重要市場であることはもちろん、拠点も数多く有している。基本的にはファブレス企業であるが、デザインやアルゴリズム開発を手がけるOTC(OmniVision Technology Center)を上海に有しているほか、上海特別区にはOSC(OmniVision Semiconductor Company)と呼ばれるテスト拠点も有している。
―― 前工程生産も今後大きく変わりそうですか。
薄井 従来、TSMCとの関係が強く、オンチップカラーフィルター(OCCF)工程では合弁会社「VisEra」を共同運営しており、これまで同様の生産が継続される。現在はこれに加えて中国での生産もすでにスタートしている。これは中国資本の流入前からのもので、今後の生産拡大分については、HLMCやXMCなど中国サプライチェーンを有効に活用することになるだろう。
―― 中国の生産比率は。
薄井 すでに2割には達していると思う。
―― 主力のモバイル向けの戦略について。
薄井 これまでモバイル向けのCMOSイメージセンサーでは高画素化の追求ニーズがほとんどを占めていたが、近年はニーズが多様化している。当社では大きく4つにトレンドを分けて、(1)高画素化、(2)画素セルピッチの拡大、(3)スリム化、(4)マルチカメラ化に分類できると思っている。
―― これらニーズに対するソリューションは。
薄井 (1)はこれまでの流れの延長線上にあるが、(2)~(4)が新たに出てきたニーズだ。(3)は画素セルピッチの微細化や積層化によりダイを小さくすることで、カメラモジュールの高さを抑えることができ、(4)は今まさに注目を集めている「デュアルカメラ化」だ。
―― デュアルカメラ化によるメリットは。
薄井 被写体への距離検知を行えたり、これまでにない絵づくりを実現することができる。また、低背化にも貢献できると見ている。絵づくりという意味では、ISPを積層した積層型BSI(裏面照射型)センサーの出荷も今年から増えてくる見通しだ。
―― 車載用については。
薄井 主流のビューイング用途では、すでに一般化しているリアビュー向けに加え、最近急増しているのがドライブレコーダーだ。ドライブレコーダーはこれまでタクシーなどで主に搭載が進んでいたが、最近はドライブレコーダー搭載車への保険料が優遇されるメリットから、一般車での普及が拡大している。また、今後はビューイング用途に加え、ADAS(先進運転支援システム)のセンシング用途として、例えば、車線逸脱警報システムや自動ブレーキシステムへの需要が増えてくる見通しだ。
―― 技術的要求は。
薄井 ダイナミックレンジに優れたもの(HDR)が求められるのはもちろんだが、最近は電子ミラーなどで200万画素などの高画素センサーが求められるようになってきている。
(聞き手・本紙編集部)
(本紙2015年8月13日号4面 掲載)