水晶デバイス大手の日本電波工業(株)(東京都渋谷区笹塚1-47-1、Tel.03-5453-6711)は、厳しい市場環境を乗り切るべく、新たなビジネスモデルの構築に乗り出している。主力の水晶デバイスでは、より一層車載分野への傾注を強めるほか、新規事業としてSAWデバイスの育成にも取り組む。営業サービス本部長を務める成瀬純一氏に現況および今後の事業計画を語ってもらった。
―― 水晶デバイス業界の市場環境は。
成瀬 2000年代前半までは水晶デバイスの業界は「日系強し」の市場であった。当社を含む日系メーカーの市場シェアは6割を超える水準にあったが、現在はこれが5割にまで低下している。大きな要因は台湾や中国などアジア系メーカーの台頭だ。彼らは民生機器を中心に徹底的な価格攻勢を仕掛けてきており、日系メーカーのシェアを奪っている。
―― 水晶デバイスの市場規模は。
成瀬 数量ベースでは毎年増えているが、金額ベースでは横ばいという状況が続いている。数量は増えるので、当然、供給能力は増やさなければならないわけで、単価下落の影響により採算性が年々低くなっている状況だ。
―― 製品の世代交代による付加価値向上は。
成瀬 寸法サイズの小型化による単価上昇がないとは言わないが、現状の過当競争のなかでは十分にそのメリットを享受することができていない。
―― 今後の方向性は。
成瀬 当社の売り上げに占める市場別構成比は現状、携帯電話30%、車載35%、AV・OA30%、残りがその他という状況だ。当社はもともと、車載市場で実績を積み重ねている。今後の市場性を考慮しても、高信頼性を武器に、これまで以上に車載市場での事業拡大に取り組んでいくつもりだ。車載分野ではADAS(先進運転支援システム)の実現に向け、前方カメラやミリ波レーダーの搭載が進んでいるが、ここにもICXOやTCXOなど水晶製品が必要になってくる。
―― SAWデバイスの戦略は。
成瀬 当社のSAWデバイスの歴史は30年以上と意外と古い。02年にはNECとSAWデバイスの開発・生産を手がける合弁会社も設立している。当時から基地局などの通信機器向けに特化しており、規模は追わずにニッチ市場に特化して事業を展開してきた。
―― 今後の注力市場は。
成瀬 モバイル分野と車載だ。車載では水晶デバイスで培った実績をベースに事業拡大に取り組むほか、モバイル分野に関しては15年度以降、モジュールメーカーへの拡販に注力していきたい。
―― SAWデバイスの生産体制は。
成瀬 生産子会社の函館エヌ・デー・ケー(株)(北海道函館市)で行っている。今後は事業拡大が順調に進めば、生産能力の増強も検討していきたい。
―― 最後に15年度の業績見通しを。
成瀬 15年度は売上高が同4%減の460億円、営業利益が同8.6倍の15億円を見込んでおり、減収予想ながらも、利益面は大幅な回復を見込む。収益回復に向けては、新製品比率9%を数値目標として据え、産業/車載向けの用高付加価値商品、SAWデバイスなどの開発を強化、事業展開を急ぐ。
(聞き手・本紙編集部)
(本紙2015年8月6日号10面 掲載)