電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第142回

「人は転んでもその痛みの中で何かを見つけて立ち上がる!!」


~UBMめっきラインを復興させたアスカの阪和彦社長の言葉~

2015/7/24

 「第3工場のUBM2号機が火災事故で燃えている2時間あまり、あぁ、これで自分たちの会社も終わりなのかな、と思った。これまでの辛かったこと、楽しかったことが走馬灯のように頭の中を流れた。しかし、それでも何としても復興し、お客様に製品を届けてみせる、との思いの方が強かった。製品はお客様の命だからだ」

 こう語るのは、昨年10月24日に工場火災を受け、なおかつミラクルともいうべき短期間で工場ラインを復興させたアスカ(福岡県直方市下境字黍田427-8、∴0949-23-0331)の阪和彦社長である。同社はめっき業界ではそれなりの地位を築いており、とりわけ最先端のめっきに強く、UBMめっきラインは同社の看板ともいうべきラインだ。それが被災した。10月24日の朝方、4時ごろに異臭を検知したが、薬液が多くエンビが燃えてしまうため、ただ水をかけるしかなかった。そして、ほぼ全焼、使いものにならずとなってしまった。

アスカ 阪和彦社長
アスカ 阪和彦社長
 「火災当初は、アスカは復旧するまでに半年はかかるだろう、と囁かれていた。致命傷ともいうべき事故との認識は私にもあった。火災原因は、めっきの液面が下降した場合に異常を知らせるセンサーが機能していなかったからだ。おまけに、ヒーターも切れなかったため空焚きになった。現場検証の結果は、あくまでも事故ということになった」(阪社長)

 消火を確認した阪社長の動きは早かった。ただちに幹部会議を招集し、営業の意見を取り入れた。関東にあるメルテックスのサンプルラインを使わせてもらおう、との結論になった。埼玉県大宮にあるそのめっきラインは、アスカのUBMとほぼ同じものであり、これを動かすことになった。しかし、1日1000~1500枚を生産しなければ納期に間に合わない。このサンプルラインは1日にたったの50枚しか出さないというものであった。

 「そこからの社員たちはまさに鬼と化したのだ。24時間フルに動かし、設備の合わせ込み・改良などの工夫をして、土日なしでぶっ倒れるようにして働いた。お客様の命である製品を預かる自分たちは死んでもヤリ遂げねばならない、との思いでアスカの団結力はすさまじい勢いで回転していく。また、お客様である日本の半導体メーカーの皆様の励ましもあった」(阪社長)

 そして……何と製品出しに半年はかかるという状況をひっくり返し、2週間後には納期どおりにすべての製品を半導体メーカーに届けることができたのだ。しかして、これで終わりではない。最も重要なことは、第3工場UBMラインを撤去し、再び立ち上げることであった。
 「第3工場復旧のスピードもすさまじく速かった。クリーンルームのコンクリート強度が落ちていたが、東レの炭素繊維により瞬く間に復旧した。ハイテク素材の凄みを知った。そして、何よりも嬉しかったことは、アスカ会の仲間たちがすべての仕事を後回しにし、アスカ復旧を最優先してくれたことだった。その結果として新ラインを40日余りで復旧させることができた」(阪社長)

 アスカ会とは、アスカをコアにする30社の仲間たちのことだ。お互いに技術の協力、生産の助け合いなどを行うグループを形成している。そのアスカ会がこれまた鬼と化した。最大のピンチを跳ね返す原動力は、この仲間たちの励ましと協力であったのだ。
 「アスカ会を結成して30年間、ゴルフと酒飲みばかりの会と思っていたが、この時アスカ会には熱い血が通っていたのだ、と再認識した。自分たちの注文をキャンセルしてまでアスカに尽くしてくれる姿を見た時に、ニッポンのものづくりを支えてきたスピリッツはこれなのだと思い至った」(阪社長)

 ピンチはチャンスなのだ、と野球ゲームなどスポーツを見ている時につくづくそう思うことがある。苦しいときこそ、そこに何かが生まれている。アスカは火災事故で10億円の損害額を出す不幸に見舞われた。不眠不休の辛い日々も続いたのだ。しかして、得たものはそれに勝るくらいに大きかった。何よりも社員の団結力はこれを契機に一層固まっていった。それは眼に見えるように鮮明なことだった。そして、アスカ会をはじめとする仲間たちのコミュニケーションはさらに深まった。もちろん、ユーザーの半導体メーカーもまた、この復旧に成功し納期を死守したアスカに対する評価を前にも増して高めたことだろう。

 人は転んでもその痛みの中で何かを見つけて立ち上がるのだ。痛みの激しさに薄れゆく意識の中で視えてくるもの、それが本物なのだと多くの先人達は語っている。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報 社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長 企画委員長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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