WHILL(株)(横浜市鶴見区末広町1-1-40、Tel.045-633-1471)は、2012年設立のベンチャー企業。社名と同じ「WHILL」という従来の概念を覆すデザインや機能性を実現した電動車椅子を展開しており、その取り組みが注目を集めている。開発などを担当するソフトウェアエンジニアの白井一充氏に話を伺った。
―― デザインが非常に印象的ですね。
白井 そこは当社が最も重要視している部分でもある。WHILLは車椅子が必要な方だけでなく、健常者の方にも「乗ってみたい」と思っていただける洗練されたデザインにこだわっており、それを明確にするため当社では、WHILLを「電動車椅子」ではなく、新しい「パーソナルモビリティー」と位置づけ開発を行ってきた。そして14年秋に台数限定で販売し、15年4月より本格販売を開始している。
―― 製品の特徴は。
白井 WHILLの開発にあたり、走行性能と回転性能の両立にこだわった。しかし、走行性を上げるためにはタイヤを大きくする必要がある一方、回転性能を高めるためにはタイヤを小さくする必要があり、大きな課題となっていた。そこで当社は24個の小さなタイヤで、1個のタイヤを構成する「オムニホイール」を開発。これにより、雪道や砂利道でもスムーズに進み、最高7.5cmの段差を超えることができる「走行性能」と、最小回転半径70cmという「回転性能」の両立に成功した。
―― ほかの特徴は。
白井 ソフトウエアにも力を入れている。その一例として、WHILLにはBluetoothを搭載しており、iPhoneで遠隔操作することができる。ベッドの近くまでWHILLを誘導することや、介護者の方が操作することなどが可能で、他にはない大きな特徴となっている。そのほかiPhoneを通して、最高速度の調整や鍵をかけることもできる。
今後は通信機能をさらに拡大し、現在地の確認、走行ルートや距離などといった情報を蓄積し、現在地をご家族の方に伝えるシステムや適切なメンテナンスのタイミングを通知する仕組みなど、機能をさらに拡張していきたいと考えている。
―― 販売・生産拠点は。
白井 国内では直販のほか、(株)三城(メガネのパリミキ)などの代理店による販売も行っている。生産は台湾の協力会社に委託する体制をとっている。そのほか、米シリコンバレーにも自社拠点があり、マーケティングや営業を行っている。
―― 電子デバイス製品について。
白井 WHILLには、モーターやバッテリーをはじめ、制御用の各種マイコン、通信用モジュール、インジケーター用のLEDなどが搭載されているほか、手すりの部分には上げ下げを検知し、安全性を高めるために加速度センサーを使用している。そして、さらなる性能向上のため電子デバイスの搭載量を増やすことも考えている。
―― 具体的には。
白井 人や障害物検知のニーズが高いことから、レーザーレンジファインダーなどの搭載を検討している。ただ、車載用は価格が合わず、かつ当社製品に搭載するにはオーバースペックであることが多く、実際に採用するには様々なハードルがある。WHILLの速度は車に比べてかなり遅いので、性能面が多少低くても問題はないが、その分小型で低コストの製品があれば非常にありがたい。
そのほか、シートセンサーをはじめとした車載用電子デバイスの採用も検討しているが、価格や仕様、数量面で対応が難しいとされることが多く、そういった点を柔軟に対応していただける方がいれば、ぜひお声がけいただきたいと思う。
―― 今後の方針を。
白井 まずはWHILLの販売拡大や認知度向上に注力しながら、性能のさらなる向上にも取り組んでいく。そのなかで、もしWHILLを使って実証をしたいという企業や大学などがあれば、共同研究なども積極的に進めていきたい。そして将来的には、WHILLをはじめとした当社のパーソナルモビリティー製品を、電車、車、自転車に続くような新しい移動手段として確立し、街を歩けばWHILLを利用している人に出会えるような社会を目指していきたい。
(聞き手・本紙編集部)
(本紙2015年7月23日号1面 掲載)