次世代の車室内空間コンセプト「デジタルキャビン」で新境地開拓に挑むアルプスアルパイン(株)(東京都大田区)のモビリティ事業部。2025年4月に従来のモジュール&システム(M&S)事業を「モビリティ事業」に改名し、26年4月からはモビリティー関連部隊をいわき開発センターに集結。全社一丸で世界に挑む基盤作りを急ピッチで進めている。取締役 常務執行役員 モビリティ事業本部長の渡辺好勝氏に、現況や独自の強み、展望など幅広くお聞きした。
―― いわき集約の進捗は。
渡辺 4月から古川のモジュール部隊をシステムを主体とするいわき側に集約して一体化し、モビリティー事業関連の新規開発をデバイスからモジュール、全体のシステムまで一気通貫で行い、迅速に高付加価値品を創出できる体制を構築中である。中国メーカーの台頭、ECU統合化が進むなかで、スピード感をもって当社モビリティ事業の強みを発揮していくための施策である。8月時点で古川からの従業員シフトは8割程度終了し、年末にはほぼ100%完了予定であり、いわき開発センターは約2000人の大所帯となる。
―― いわきで手がける製品群は。
渡辺 センサーなどコンポーネント系の一部を除き、コックピット周辺機器向けを中心に車載製品の大半をいわきで開発している。全社売上高(25年度実績は約1兆円)のうちモビリティ事業は約55%を占めるが、センサーやスイッチなどの各種車載搭載部品を足し合わせると、全社売上高の約7割近くが自動車関連になる。当社モビリティ事業一体で議論を重ね、当社が人、モノ、金を投じるべきコンセプトと見定めたのが「デジタルキャビン」である。
―― デジタルキャビンについて。
渡辺 20年からデジタルキャビンを当社車載関連の活動の中心に据えて取り組んでおり、25年度に量産準備が整い、26年度から量産段階に入るため、次の提案活動や次のモデルの仕込みを始めている。車室内空間価値を主軸に捉え、当社が持ち得る入力系のスイッチやHMI(ヒューマンマシンインターフェース)、アウトプット系のディスプレーやサウンド、光、そしてこれらを制御するソフトウエア(SW)領域などの強みを存分に発揮していく。トータルシステム商品として提案し、空間価値インテグレーターとしての貢献を目指す。これらの頭脳となるSoCは、公表済みのクアルコムに加え、様々なSoCメーカーと柔軟に協業している。
―― 新製品の創出にあたり重視していることは。
渡辺 お客様が欲しいものを当社が率先して提案できる開発を目指している。AIを活用した商品価値提案、他社と協業した付加価値提案などを実行中である。これまでも日本精機様との統合コックピット製品開発、自動車シート大手のテイ・エステック様との次世代車室内空間コンセプト「XRキャビン」など様々な協業実績がある。これら実践のカギは現場にある。社員には現場に行き、現物を見て、現実を知り、次のアクションにつなげることを推奨している。
―― モビリティ事業における投資計画は。
渡辺 26年度は315億円を計画し、内容的にはSW関連が中心となる予定だ。このいわき開発センターと同じ敷地内にある信頼性評価センターでは、車載グレードを満たす厳しい検査・評価を実施している。また、周辺の平工場ではフィルム関係、小名浜工場ではコンポーネント製品やセンサー&コミュニケーション関連製品を生産しているほか、車載製品の量産工場も当センター周辺にある。
―― 各国の法規制関連で注目すべきものは。
渡辺 日本では、国土交通省がドライバーモニタリングシステム(DMS)の搭載義務化の方針を固め、31年から新型車に適用、33年からは既存車種の継続生産車にも搭載を義務付ける方向で、秋に省令改正がなされるようだ。当社は欧米でDMS用カメラや乗員検知用60GHzミリ波レーダーで採用実績があり、多くの引き合いを得ている。
―― 今後に向けて。
渡辺 中国の台頭など自動車業界は目まぐるしく変化している。こうした状況下では、変化の先頭に立つものだけが生き残るとみる。当社も自社の強みを熟知して人、モノ、金を投入していく必要がある。一例として、モビリティーという視点からレンタカー事業やライドシェアなど社会課題解決などの新規取り組みも始めている。また、改善に終わりはないことも周知徹底していく。今後はSWの依存度がますます高まるとみており、当社モビリティ事業一丸でティア0.5へと躍進すべく挑んでいく。
(聞き手・高澤里美記者)>
本紙2026年10月01日号2面 掲載