近年、自動車メーカーやTier1が相次いで半導体の設計・開発機能を強化している。SiCデバイスの実用化に取り組むトヨタ自動車を筆頭に、東京都内に半導体開発センターを開設したアイシン精機、ミニマルファブを導入したジェイテクト、直近ではデンソーが東京支社を移転拡張して半導体の回路設計部門を統合する計画を明らかにするなど、枚挙に暇がない。その背景や今後の展望について、大手調査会社IHSのアナリスト、南川明氏に話を伺った。
―― 自動車メーカーやTier1が半導体事業を強化する狙いは。
南川 最大の理由は、ブラックボックス化の回避だ。クルマの安全性や快適性を半導体が左右する傾向が年々強まっていくなか、コア部品を半導体メーカーに依存したままでは競争力を高めることができないというのが、自動車メーカーやTier1の認識だ。
また、東日本大震災を境に海外の半導体メーカーとの取引が拡大しているが、日本の半導体メーカーほどカスタム化には応じてくれず、価格交渉もタフであることが、国内の自動車メーカーやTier1を半導体事業の強化に向かわせている。もちろんBCP(事業継続計画)対策も理由の1つだ。
―― 自動車メーカーやTier1が半導体ファブレスとしての性格も併せ持つようになってきたと考えています。
南川 そのとおりだ。自動車メーカーやTier1が所要するシリコンウエハーの量は年々増えている。こうして製造したICのほとんどが電装化に必要な社内ユースであり、決して外販目的ではない。
1980年代、クルマ1台に搭載されるICは金額にして5000円程度だったが、現在では平均で3万円、電気自動車やハイブリッド車であれば6万~7万円にのぼっており、まだ増え続けている。その4割がメモリーやロジック、残り6割がアナログやパワーデバイス、センサー、オプトという構成だ。
メモリーやロジックは設計関連の投資ですら巨額を要してしまうため自社で開発するわけにはいかないが、アナログやパワーデバイス、センサー、オプトであれば自社設計・開発に価値を見出すことができる。「ここにウエートを置こう」というのがTier1の基本的な考え方だ。
―― 自動運転を実現して事故を減らすという大きな目標もありますね。
南川 完全自動運転の実現はもう少し先だろうが、その時代は必ずやってくる。2020年に世界の自動車生産台数が1億台に乗ると仮定して、このうちエコカーが占める割合はまだ10%にも満たないだろう。だが、IoT(Internet of Things)で世界中のエコ化を進めようとする流れが今後もっと世の中に強く出てくれば、エコカーの普及や自動運転技術の搭載は想定よりも早まる可能性があると考えている。
―― Tier1による半導体事業の強化が半導体メーカーに与える影響は。
南川 Tier1とて必要なICをすべて内製できるわけではないため、半導体メーカーとともに製品力を高めていこうというスタンスや取引関係は従来と変わらないだろう。
だが、ICの製造ではファンドリーの重要度が高まる。これまでは国内の半導体メーカーとがっちり組み、生産を委託したIDMに高い品質を求めてきたが、これではコストを下げられない。15年はTier1が自社設計したICを海外ファンドリーで本格的に流す元年になるとみている。これにより自社設計したICを海外で調達できるようになる。クルマの生産が現地化しつつあることや、クルマ自体が多様化しつつあることを考えれば、ゆくゆくはICを海外で設計するということも考えられる。
―― 自動車メーカーやTier1が半導体の開発を強化していくとすれば、次に取り組むテーマはどういった分野ですか。
南川 まだあまり多く議論されていないが、セキュリティーだろう。IoT化によって車車間通信、車外との通信に対する安全性がきわめて重要になる。ハードとしてのICに加え、ここではソフトウエアの役割がさらに増すはずだ。
(聞き手・本紙編集部)
(本紙2015年7月2日号3面 掲載)