電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第664回

中国スパコン、9年ぶりに世界首位へ


17年の「神威・太湖之光」以来

2026/7/31

 中国のスーパーコンピューター(スパコン)が、計算性能の世界ランキングで9年ぶりに首位へ返り咲いた。2026年6月23日、ドイツ・ハンブルクで開催された国際会議「ISC2026」で、世界のスパコンの計算性能を比較する「TOP500」が発表された。中国・広東省深セン市の国家超級計算深セン中心に設置された「霊晟(LineShine)」は、中国独自の「霊鯤(LingKun)」プラットフォーム、304コアの「LX2」プロセッサー、独自の「霊犀(LingQi)」インターコネクト、国産OS「Kylin」を採用している。HPL(High Performance Linpack)ベンチマークで2.198エクサフロップスを記録し、米国の「El Capitan」を抜いて世界1位となった。中国のスパコンが首位に立つのは、実に17年の「神威・太湖之光」以来となる。

■中国のスパコン開発の歴史

 中国のスパコン開発は、海外製半導体を利用したシステムから始まり、CPU、接続技術、OSを含む国産化へと進んできた。中国が初めてTOP500の首位に立ったのは10年11月のことだ。天津国家超級計算中心に設置された「天河1号A」が2.57ペタフロップスを記録し、米国のスパコンを抜いた。ただし、同機は米Intel製CPUと米NVIDIA製GPUを使用しており、中国独自のシステム技術と米国製半導体を組み合わせた構成だった。

 13年6月には、国防科技大学が開発した「天河2号」が33.86ペタフロップスで世界1位となった。天河2号もIntelのXeon CPUとXeon Phi演算アクセラレーターを使用していたが、インターコネクト、OS、フロントエンドプロセッサーなどの多くは中国で開発された。天河2号は13~15年に首位を維持した。

 そして、15年が大きな転換点となった。米国政府は、天河シリーズに関係する国防科技大学や中国のスパコンセンターを輸出規制の対象とした。Intel製の高性能プロセッサー「Xeon」の調達が難しくなり、中国にとってCPUを国産化する必要性が一段と高まった。

世界スパコントップ国ランキング2000年~26年
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 16年には、中国独自の「申威26010」プロセッサーを搭載した「神威・太湖之光」が93.01ペタフロップスを記録し、世界1位となった。米国製CPUに依存せず、国産CPUで首位を実現した点に大きな意味がある。同機は17年まで首位を維持した。

■スパコンでも米中は首位争い

 2000年代のTOP500では、米国が首位をほぼ独占していた。IBMの「ASCI White」「BlueGene/L」「Roadrunner」、Crayの「Jaguar」などが世界最速の座を占めた。02~04年には日本の「地球シミュレータ」が首位となったが、国別の掲載台数を含めれば、米国の優位は揺らいでいなかった。

 中国は10年に天河1号Aで初めて首位となり、13年には天河2号で再び1位に浮上。16年には神威・太湖之光が天河2号を抜き、中国勢が世界1位と2位を占めた。16年にはTOP500掲載台数でも中国が167台、米国が165台となり、中国が初めて米国を上回った。中国は最速機だけでなく、掲載台数と合計性能でも米国と競う段階へ入った。

世界スパコントップ国ランキング2000年~26年
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 その一方で、米国は国家研究所を中心に次世代スパコンへの投資を進めた。18年にはオークリッジ国立研究所の「Summit」が122.3ペタフロップスで中国から首位を奪還した。20~21年は日本の「富岳」が首位となったが、22年には米国の「Frontier」が1位となり、24年11月にはローレンス・リバモア国立研究所のEl Capitanが首位に立ち、米国優勢の状況が続いた。


■米中関係の悪化後の変化

 米中のスパコン競争は、純粋な科学技術競争から、半導体、軍事、安全保障、輸出規制を伴う戦略競争へ変化した。米国は15年に天河シリーズの関係機関を輸出規制の対象とし、21年には中国のスパコン開発に関係する7組織をエンティティー・リストへ追加した。その後も先端半導体やAI向け演算チップなどに対する規制を強化している。中国はこれに対し、CPU、アクセラレーター、インターコネクト、OSなどの国産化を進めた。

 この時期から、ISC発表のTOP500だけでは中国の実力を把握しにくくなった。TOP500には運用主体が報告するステム、およびその測定結果が掲載される。中国は20年代に入り、新しい大型システムの提出が減少した。すでにエクサスケール級のシステムが稼働しているとの報道があっても、詳細な構成や測定結果が公表されない例がみられた。

 その背景には、輸出規制の強化や米国側の警戒を避けるため、中国が能力の全面的な開示を控えた可能性が指摘されている。ただし、中国政府や開発機関がその目的を公式に説明したわけではなく、確定した事実ではない。

■スパコンランキングだけではないAIの競争

 米国についても、全ての計算能力が公開されているわけではない。米エネルギー省傘下の国家研究所はFrontier、Aurora、El Capitanなどの性能をTOP500へ提出している。一方、国家安全保障に関係する非公開システムや、Amazon、Google、Meta、Microsoft、OpenAIなどが使用する民間AIクラスターの全体像は明らかになっていない。

 TOP500が主に測定するのは、64ビット倍精度演算によるHPL性能だ。これに対し、生成AIの学習や推論では、より低い精度の演算やGPUなどのAIアクセラレーターが大量に使われる。そのため、従来型スパコンの順位とAI計算能力は一致しない。

 今回「霊晟」がHPLで世界1位となった一方、混合精度性能を測るHPL-MxPでは7.92エクサフロップスで4位だった。CPUだけで構成され、GPUなどの専用アクセラレーターを使っていないことも関係している。

 米国では政府主導のスパコンに加え、民間企業によるAIデータセンター投資が急拡大している。OpenAI、SoftBank、Oracle、MGXが進める「Stargate」は、米国内のAIインフラへ4年間で最大5000億ドルを投資する計画だ。中国でも通信事業者やクラウド企業、地方政府などがAI計算基盤を増設しているが、こうした施設の多くはTOP500に測定結果を提出していない。したがって、同ランキングだけで米中の総計算能力やAI開発能力を比較することはできない。

■26年の首位返り咲きが示す3つのポイント

 今回の中国の首位返り咲きには大きく3つのポイントがある。まず最初に、中国のスパコン開発力が実際に高まっていたことが指摘できる。「霊晟」は国産CPU、独自インターコネクト、国産OSを採用し、HPLだけでなく、実用性能を重視するHPCGでも世界1位となった。米国の輸出規制が続くなかで、中国が自国技術を中心に大規模システムを構築できることを示した。

 第2として、中国が今回1位となるシステムとその能力を国際ランキングへ再び提出したことが注目される。中国は近年、いわば「能ある鷹は爪を隠す」のように、最新システムの全容を積極的に開示してこなかった。その中国が「霊晟」の測定結果を提出し、首位を公にしたこと自体が注目される。中国が自国技術への自信を強めたことや、対外的に技術力を示す方向へ戦略を変えようとする何らかの思惑があったのかもしれない。ただし、米中関係の最近の変化が影響したという見方は筆者の推測であり、今後の検証が必要である。

 最後になるが、スパコンランキングと国家全体の計算能力は分けて考える必要がある。米国は国家研究所のスパコンだけでなく、巨大IT企業を中心にAIデータセンターへ大規模な投資を進めている。中国もAI計算基盤を急速に整備しているが、両国とも民間、軍事、研究用システムの全容は公表していない。今回の「霊晟」の世界1位は、中国のスパコン技術が世界の最先端に返り咲いたことを示す明確な成果である。しかし、それだけで米中の総合的な計算能力やAI開発力の優劣が逆転したと判断することはできない。従来のランキングだけでは、米中の計算能力競争の全体像を捉えることは難しくなった。


電子デバイス産業新聞 上海支局長 黒政典善

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