電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第137回

やはり日本には最先端の微細化ファブが必要だ!!


~デンソーの石原秀昭氏が語る車載半導体の進化形~

2015/6/19

 「車載半導体の最大手であるルネサス エレクトロニクスが40nm以降の微細プロセスは自前でファブを立ち上げない、との方向を打ち出している。これでは将来元気が出ない。車載半導体の進化形を考えれば、やはり日本国内に最先端の微細化ファブは絶対に必要なのだ。それこそナショナルプロジェクトで、オールジャパンの最先端ファンドリーを作れないものなのか」
 こう語るのは自動車電装の大手であるデンソーのIC技術2部担当部長の石原秀昭氏である。2015年5月26日に開催された日本電子デバイス産業協会(NEDIA)のアクションセミナーの席上における発言であった。この石原氏の強い示唆の言葉に、会場の人は皆深くうなずいていたのだ。

 さて、石原氏は「車載半導体の進化の方向性」というタイトルで講演されたが、実に面白い内容であった。デンソーは1968年には早くも半導体の研究・生産をスタートさせている。当初はスターターやオルタネーターの整流器から始めたのだ。その後、多くの開発を積み重ねていき、内製半導体メーカーとしてはかなりの生産金額に達しており、国内ランキングでも上位にランクされてもおかしくないほどなのだ。

 ハイブリッド車、ISS車、ISG車、EV車、燃料電池車などにより、パワートレインの市場は多様化している。石原氏が盛んに強調していたのは、次世代車の本命はいない、ということであった。EVの時代はまだ本格的に来ない、とも言っていた。まったく安全・安心で計画的な走行をする電車のような自動車を本当に求めるのか、すべてのユーザーがそうとは限らないだろう。もっとも高齢者向けの超スロースピードの1人乗りEV、もしくは常に同じスピードで停まるところも決まっている路線バスのような世界では自動走行運転は価値を持つが、実際のところ自動走行運転は、社会的受容性が成熟するには年月がかかることは間違いない。

 「半導体の価値イノベーションを考えてみれば、内燃機関そのものの革命でCO2を減らすという方法もある。また、EVは有効なCO2削減の方法論ではあるが、現状のリチウムイオン電池でいけるとは皆思っていない。やはり革新的なインバーターとモーターも必要になる。燃料電池車については、水素エネルギーをどうコントロールするかという問題もある。2020~2030年にはこうした要素技術をすべて確立していかなければならない」(石原氏)

 そう指摘したうえで石原氏は、1990年から開発が始まったSiCパワー半導体の時代が25年もかけてようやくやって来る、とも発言していた。また、GaNも電源で花開く、と見ているようだ。自動運転における画像センシングの課題も多く、現在は中途半端なセンサーとなっており、どんなシーンや状況でも正確に認識し検出できるものはまだない、と判断しているようでもあった。

デンソーのIC技術2部 担当部長 石原秀昭氏
デンソーのIC技術2部 担当部長 石原秀昭氏
 「車載向けのマイクロプロセッサーについては、低消費電力化というより、高性能化のシナリオがほしい。並列化処理するために性能を上げることは実は大変に難しい。また、ソフトリアルタイムではなくハードリアルタイムという世界であるから、スマホやタブレットのマイクロプロセッサーとは全く異なる思想・設計が求められる。車載向けプロセッサーは、どちらかというと航空機やロボットと似ているのだ」(石原氏)


 将来インテリジェント化する自動車は、ゼロエミッションそして自動運転を目指した理想的なエコシステムを求められていることは間違いない。しかしながら、CO2イコール地球温暖化は直結する問題なのか、疑問は残るのだ。筆者は「グーグルやアップルが自動車産業に足を踏み入れてきて、パソコン、スマホの世界に持ち込もうとしている」と石原氏に感想をぶつけたところ、こういう答えが返ってきた。
 「うまく言えないが、少なくともドイツ、米国、さらにEU諸国の自動車メーカーは自己責任で使ってくださいというスマホ型エレクトロニクスは望んでいない。次世代自動車を語る場合、見逃せないのは、エネルギーだけが代わるのであって、他はまったく変わらないということだ。確かに通信機能やIoTなどの革新はされるであろうが、自動車という本質は変わらない。完全自動運転に切り替えたときに道路上で通信が途絶えて、死亡事故を起こしたときに誰が責任を取るのかという問題が残る」(石原氏)

 ところで、NEDIAの企画委員会はアクションセミナーをシリーズ展開しているが、この1年間のテーマは自動車産業に絞っている。デンソーの石原氏の講演の前にはローム、三菱電機の開発の中心人物が実に面白い講演をしてくれた。次回は7月13日(月)17:00から、ガスレビューの名物記者である林佳史氏が「燃料電池と水素エネルギーの将来像」の講演を行うことになっている。ぜひとも多くの方に参加してもらいたいと思う(参加費はNEDIA会員は1000円、非会員は3000円)。

 それにしても、ルネサスが40nm以下のファブを作らないのであれば、最先端の車載向け半導体は、TSMCをはじめとする外国ファンドリーにすべて依存することになる。知財権保持、リスクヘッジという点で多くの問題が残される。数年前から出ているオールジャパンのファンドリー計画は、一体いつになったら実現するのであろうか。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報 社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長 企画委員長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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