電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第98回

注目集めるバイオガス発電


FIT、地産地消などが追い風

2015/5/29

 バイオマスは、石油・軽油代替燃料、材料、発電、肥料などの用途が考えられているが、ここ最近特に注目を集めているのがバイオガス発電だ。その背景には再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT)があり、最近では売電を目的とした投資が目立つ。他方、カーボンニュートラルで、かつ地産地消の循環型エネルギーシステムを構築できるなど、バイオマスの優位性も見直されている。バイオガス発電の動向を探ってみた。

メリットの多さに着目

 バイオガス発電は、家畜糞尿、食品廃棄物、下水汚泥、麦わら、稲藁などの資源を発酵処理してからバイオガス(メタンガス、CO2など)を取り出し、ガスタービン発電機や燃料電池で発電する。具体的には、(1)前処理、(2)メタン発酵、(3)発電のプロセスを経る。(1)では、資源の破袋、破砕、発酵不適物の選別などを行う。(2)では、温度30~60℃で、かつ酸素のない環境下で発酵させる。(3)では、メタン発酵で発生したバイオガスを燃料としてガスタービン発電機や燃料電池で発電する。装置としては、前処理設備(前処理)、メタン発酵システム(メタン発酵)、バイオガス発電機(発電)などがある。

 このほか、バイオガス発電する前に硫化水素を取り除く「脱硫プロセス」もある。これはバイオガス発電機などの腐食防止や排ガスの環境対応の観点から実施するもので、脱硫装置を使う。

 なお、バイオガス発電とは別に、バイオマス発電がある。バイオマス発電は家畜糞尿、食品廃棄物、下水汚泥などを直接燃焼し、発生する熱を利用して蒸気タービン発電機などで発電する。

 バイオガス発電によるメリットは多い。第一に、発電時に生じた熱を熱回収設備により取り出し、暖房、温水プールなどに利用できる。また、メタン発酵プロセスで残った残渣(消化液)を殺菌処理すれば、肥料として活用することも可能だ。加えて、使用する資源はもともと大気中のCO2を吸収・呼吸したものであるため、燃焼プロセスでCO2が発生しても大気中のCO2量は変わらない(カーボンニュートラル)。

 さらに、FITにより、電力会社に売電できる。現在の調達価格は39円/kWhだ。これは、バイオマスの中では間伐材バイオマス発電(2000kW未満)の40円/kWhに次いで高い。なお、これら以外では、間伐材バイオマス発電(2000kW以上)が32円/kWh、一般木質・農作物残渣バイオマス発電が24円/kWh、建築資材廃棄物バイオマス発電が13円/kWh、一般廃棄物・その他バイオマス発電が17円/kWhとなっている。

北海道に大型プラント

 こうしたバイオガス発電は全国で導入されているが、とりわけ多いのが北海道だ。例えば、鹿追町は「環境保全センター」内に大型バイオガス発電プラントを稼働させている。これは、鹿追、中鹿追地区の酪農家が利用する集中型プラントで、家畜糞尿処理量94.8t/日(成牛換算約1300頭)に対応する。年間では一般家庭450戸分の使用量に相当する180万kWhを発電する。うち、約5割を施設内利用、残りを売電し、売電収入は施設の管理費などに充てている。また、消化液は高品質の有機肥料として年間3万tが酪農家、耕農家に供給されている。

 別海町では7月から別海バイオガス発電(株)の国内最大級のバイオガス発電プラントが稼働する予定だ。発電出力1800kW(600kW×3基)、年間発電量960万kWh(一般家庭約2700世帯分)に対応し、発電した電力はすべて電力会社に売電する。

関連企業は多いが課題はコスト

 バイオガス発電関連企業は多い。具体的には、神鋼環境ソリューション(メタン発酵システム、バイオガス発電機など)、タクマ(メタン発酵システムなど)、ヤンマーエネルギーシステム(バイオガス発電機など)、大原鉄工所(バイオガス発電機、前処理設備など)、荏原実業(脱硫装置など)などだ。

 いずれの企業も2014年、15年と事業は好調なようだ。その背景には先述のFITが挙げられる。導入先は下水処理施設、バイオガスプラント、食品製造工場、牧場など様々だ。

大原鉄工所のバイオガス発電機
大原鉄工所のバイオガス発電機
 例えば、大原鉄工所は15年4月末時点で54台受注し、うち33台が納入済みだ。具体的には、新潟県流域下水道事務所、(株)開成(新潟県村上市)、コーンズ・アンド・カンパニー・リミテッド、ひかり味噌(株)(長野県諏訪郡)、佐野ハイブリッド発電(株)(栃木県佐野市)などだ。

 一方で、バイオガス発電における課題の1つが高い設備投資コストだ。バイオマス発電機は比較的安く、30kW品の参考価格で1000万円前後だ。ただし、前処理設備、メタン発酵システムなどの設備も購入すると億円規模になるケースも珍しくない。

電子デバイス産業新聞 編集部 記者 東 哲也

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