電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
新聞情報紙のご案内・ご購読 書籍のご案内・ご購入 セミナー/イベントのご案内 広告のご案内
第132回

ニッポン半導体で傷ついた人たちに大きなビジネスチャンスを与えたい!!


~コネクテックジャパンの平田勝則社長は画期的パッケージプロセスで勝負~

2015/5/15

 「わが国の半導体後工程工場は、かつて140カ所もあり、隆盛を極めた。しかして今日にあって、何と32カ所までシュリンクした。パッケージを含む後工程関連では、20万人のジョブレスが生まれるに至った。この人たちに何としても仕事の機会を与えたい。それも、これまでの半導体の世界を凌駕する画期的なプロセスで勝負してもらいたい」

コネクティックジャパン(株) 平田勝則社長
コネクティックジャパン(株) 平田勝則社長
 こう語るのは気鋭の半導体ベンチャー、コネクテックジャパン(株)(新潟県妙高市工団町3-1、Tel.0255-72-7020)の平田勝則社長である。平田氏は新潟市生まれ、父は元ボクサー、平田元勝氏であった。元勝氏は後にコメディアンとなったたこ八郎とも若かりし頃勝負している。息子の平田氏は直江津高校を出て、薬のバイヤーなどを数年間やった後に新潟に戻り、松下電子工業(松下とフィリップスの合弁会社)新井工場が開設されることに伴い、半導体の世界に飛び込むことになる。

 「とにかく仕事は面白くて仕方なかった。ウエハーから全工程をやらせてもらった。要するに経理、人事以外の仕事は全部やった。パラジウムめっきのQFPを世界で初めて導入し、大幅なコストダウンを図った。その後も良き上司に恵まれ、松下時代は70%コストを下げるプロジェクト、CSP事業化に成功する。パッケージ開発の企画担当の参事までいったが、2009年4月に退社することになる」(平田氏)

 つまりはリーマンショックによる半導体産業の一気凋落があり、パナソニックは大リストラに踏み切るのだ。平田氏は、自らが立ち上げ、また関わっていた多くの半導体工場の閉鎖リストラの企画推進するという辛い仕事に取り組む。派遣系の社員は全部一律にリストラとの決定がなされ、人員は30%削減された。こうした始末をつけたうえで、平田氏自身も自主退社に踏み切るのだ。しかしながら、半導体に懸ける情熱はまだまだ止みがたいものがあった。

 「30年に及ぶ半導体の仕事の関わりから、業界の問題はよく分かっていた。前工程については巨大投資の世界であり、日本が大きく巻き返すことは難しい。ところが後工程であれば、まだまだ日本の材料・設備技術は先を行っていると考えた。パッケージの世界は10年間イノベーションが起きていない。イノベーションなプロセスが新たに起きる事で、材料・設備などの周辺産業も含め、新たな事業、雇用創造ができるのではないか。イノベーションを起こすことが可能な経験豊富な多くの人財がこの国にはいて、それが世界に挑戦できる唯一の武器となる。そこで全くのオリジナルのパッケージ技術=MonsterPACに考えついた」(平田社長)

 MonsterPAC技術のコアコンピタンスは、ウァラブル・モバイル市場の主力LSIとなる層間絶縁膜のLow-kチップ・MEMSチップなど、回路が熱や応力に脆弱な製品を、どのような基板材料にも対応できる低温・低荷重のチップ回路面に一切ダメージを与えないダメージフリーのフリップチップ技術であることだ。セラミックでも有機基板でもフレキ基板でも、あらゆる材料に合わせ込める。従来の技術がウエハー側にメッキプロセスを活用してバンプを形成するのに対し、基板上にバンプを形成するので、チップ側にバンプを形成することが不要となる。シンプルかつ最短のプロセスを実現できるのだ。通常のウエハーバンプやフリップチップの設備を一式揃えれば約30億円の投資が必要になるが、このMonsterPACを採用すれば1億円以内で済むというウルトラ技なのだ。おまけに、リードタイムも有機基板BGAの6日に対し、2日に短縮されてしまう。10,000端子のチップで比較した場合、金バンプは500kg・300℃の接合荷重・温度がかかり、はんだバンプや銅ピラーバンプにおいても24kg・270℃の接合荷重・温度によりチップ回路へのダメージが大きい。しかして、MonsterPACはほとんどダメージフリーのわずか1.2kg・170℃を実現している。

 「MonsterPACシリーズは、従来技術に対し、設備投資金額30分の1、リードタイム3分の1、工場消費電力10分の1を達成する革新的モノづくりといってよいだろう。当社は今後マザー工場を建設し、量産に打って出る考えであるが、それと並行して超小型のデスクトップ工場の提案もしている」(平田氏)

 平田氏のいうデスクトップ工場とは、MonsterPACフリップチップボンダーを超ミニ型にしたものであり、その目標の大きさは驚くなかれ70cm×70cm×80cmというものであり、重さはわずか50kg、設備価格はわずか1000万円以内なのだ。つまりは世界一コンパクトな半導体組立ラインを机の上に載るサイズに作り込んだことになる。ケミカルフリーであり、ガスも使わない。100Vの電源さえあればどこでもいつでも組立ができる。これこそ世界に誇る画期的なイノベーションではないか、との思いで平田氏の顔を見つめていたら、こういう言葉が返ってきた。

 「多くの仲間たちが職を失い、すし屋のアルバイトや守衛などをしている。日本中において半導体をやりたくてもやれずに、心鬱々として他の仕事に就いている人たちは膨大な数に上るのだ。私がこの半導体組立のデスクトップファクトリーを作り上げたいのは、たった数人の仲間でも1000万円のお金を集めることができれば、本格的な半導体組立事業に参入できるからだ。半導体から離れた多くの仲間たちよ、戻ってきてくれ。そしてまた一緒に、半導体を作っていこうではないか」


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報 社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長 企画委員長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
サイト内検索