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第121回

産業技術総合研究所 ナノエレクトロニクス研究部門ミニマルシステムグループ長/ファブシステム研究会 代表 原史朗氏


ミニマルへの見方「3年で変わった」
デバイス複数社と共同開発へ

2015/5/15

産業技術総合研究所 ナノエレクトロニクス研究部門ミニマルシステムグループ長/ファブシステム研究会 代表 原史朗氏
 0.5インチのシリコンウエハーを用い、幅30cmの製造装置を並べて、究極の多品種少量生産システムの実現を目指している「ミニマルファブ」。これにより、最先端工場であれば数千億円を要する設備投資額を1000分の1に抑え、わずか5億円で超コンパクトな半導体製造ラインを構築してしまおうという画期的な取り組みである。2014年度までの3年間は国家プロジェクトの指定を受け、当初描いたロードマップどおりに着実な開発を進めてきた。現在の状況と15年度以降の方向性について、プロジェクトを率いる産業技術総合研究所 原史朗氏に聞いた。

―― 国家プロジェクトの3年間でミニマルファブに対する世間の見方が変わったように思います。
 原 私もそう感じている。ミニマルファブ構想を提唱し始めた当初は(1)コンセプト、(2)技術、(3)マーケティング、(4)マネジメントに不安を持たれた方が数多くいた。「原とはどんな人物なのか」「そんなシステムで半導体が作れるのか」「どの市場を狙っているのか」「100社にも及ぶ参画企業を引き連れてプロジェクトを展開していけるのか」といった意見を多くの方から頂戴した。
 だが現在、こうした疑念はほぼ払拭されたと思っている。4月に開催した定期総会には、プロジェクトに参画いただいている関係者が280人も集まった。産総研内にあるミニマルファブのモデルルームには現在、70台のミニマル装置が並んでいる。これをご覧いただいた方には「これだけ揃えば必ず何かができる」という手応えを感じていただいている。将来のユーザーを本気にさせられるかが大事だと考えてプロジェクトを進めてきたが、そう感じていただけるレベルに来た。

―― すでに一部のミニマル装置を購入したユーザーもいますね。
 原 現在までにデバイスメーカー5~6社から共同研究の打診をいただいている。まだ具体的な計画と呼ぶには早いが、「ミニマルファブの導入計画を立てるために一緒に開発しよう」というオファーだ。こうした企業は、潜在的に「半導体を製造したい」という希望を持つ、世間で名の通った会社だ。
 だが、現在の半導体産業は、こうした企業が持つ悩み、つまり「専用ラインを自社で持つには設備投資が掛かりすぎる」「ファンドリーに生産を委託するにはロットが小さすぎる」といった課題に解を与えることはできない。唯一ミニマルファブだけが、こうしたニーズに対応できる生産システムだ。

―― こうした潜在顧客はミニマル生産システムでどのようなデバイスを作りたいと言っていますか。
 原 あまり詳細はお話しできないが、一例を挙げるなら、驚くなかれ、ダイオードだ。ダイオードは世界的に見て生産が寡占されており、チップサイズが小さいため、ファンドリーに委託すると作りすぎてしまう。ロットが大きくない割にはシリコンエピが必要であるなど手間がかかり、デザインルールは1μmで十分だったりする。
 最近は、クルマの電装化でダイオードにも高周波、高電圧対応が求められているが、小回り良く開発できる状況にはない。これをミニマルファブで製造すると、0.5インチウエハー1枚で約100個のダイオードが製造できる。ユーザーの要望に合った開発・製造が可能になるだろう。

―― ミニマルファブは半導体の開発にも大きなインパクトを与えそうです。
 原 そのとおりだ。研究者としての視点で言わせていただくと、研究開発の現場で半導体を作ろうとすると、1日で2工程を行うのがやっとであり、ある意味でこれが世界のR&D現場の常識。それだけ装置や材料のセットアップに時間を要するのだ。
 だが、ミニマル生産システムが整ってきたおかげで、最近では産総研内でデバイスを開発している研究者から「試作にミニマルを使いたい」という声をかけていただけるようになった。ミニマル生産ラインであれば、1日に20工程をこなすことは普通にできる。これによって研究者は本来の開発テーマにより多くの時間を割けるようになる。
 もちろん、ミニマル生産システムは量産にも向く。昨年12月のセミコン・ジャパンに出展し、会場でプロセスデモを実施して計測した結果、ウエハー投入からデバイスができるまでのトータル時間のうち、プロセス処理に占める時間が60%にものぼった。装置の前で大量のウエハーが滞留している300mmメガファブではありえない値だ。

(聞き手・本紙編集部)
(本紙2015年5月14日号1面 掲載)

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