電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第131回

アーズはワイヤレスセンサーシステムの世界でブレイクする!!


~ユニーク団体のニーズとシーズの会で意欲的な講演~

2015/5/1

 「ワイヤレスセンサーシステムは、人間の五感+勘に代わるものを無線で人に伝える世界なのです。人が容易に入れないところ、危険なところ、非常に高いところにもこのシステムは入り込んでいくのです。IoT、またはM2Mの世界に入っていけば、ますます必要になってくる分野だと思います」

 こう語っている女性は、アーズというベンチャーカンパニーの取締役である漆原育子さんである。アーズは無線通信デバイス/システムの先進ベンチャーであったが、世界の温度の標準を持つ著名メーカーのチノーの傘下入りし、活躍のステージを広げている。アーズ創業者の佐藤光氏は、筆者の盟友ともいうべき存在であったが、前年に病に倒れ、帰らぬ人となってしまった。佐藤氏は2000年の日本半導体ベンチャー協会(日本電子デバイス産業協会の前身)の立ち上げに尽力し、長く理事を務められた。

 佐藤氏の死去は痛恨の出来事であったが、彼は漆原さんというすばらしい後継者の女性を残してくれた。筆者は12年間にわたって彼女を見続けているが、可愛らしくあどけない女の子が設計エンジニアとしてめきめきと力をつけていく姿を見るにつけ「女は変わっていくものなのだ。あな、おそろしや」との思いを深くしている。

 「高性能のシステムインパッケージは加速度的に進んでいる。温度、気圧、ガス、湿度、光、バイオなどのセンサーデバイスも多く出てきている。小型化、省電力化も進んでいる。検出回路もセンサーに特化し、複合化してきている」(漆原さん)

アーズ 取締役 漆原育子さん
アーズ 取締役 漆原育子さん
 彼女の話で特に面白かったのは、環境発電・蓄電デバイスの世界が急速に広がっており、2次電池、リチウムイオンバッテリー、キャパシタなどの組み合わせが重要とのことであった。技術課題としては、蓄電計とのインピーダンスマッチング、充電制御、リーク電流を抑えることがある。何しろ、今後のウエアラブル端末の本格普及については画期的な発電方法、さらにはワイヤレスの充電が必須になってくるわけであり、アーズの活躍の機会はますます増えてくるだろう。

 ところで、彼女が講演している場は、「ニーズとシーズの会」というユニーク団体が主催している。この会は、どちらかといえば電子材料に関わる人たちが中心となっているが、フリーな雰囲気、活発な討議がされており、業界におけるよき情報交換の場となっているのだ。
 ニーズとシーズの会を仕切っている吉野諒氏は、ある意味で業界の御意見番であり、水戸黄門のような存在である。2015年4月22日、化学会館において「日本の電子デバイス産業-その現状と展望」というタイトルで、この会の2015年度の第1回カンファレンスが行われた。筆者は基調講演を担当させていただき、招待ゲスト講演としてロームのパワーデバイス製造部の三浦峰生氏、そして前記の漆原さんが登場し、その後はオフレコ自由な質疑応答となった。そして、お楽しみの飲み会(交流会)へと流れてゆく。会員は1社2名まで無料、一般の人でも1人1万5000円で参加できるのだ。

ニーズとシーズの会はユニークな活動を展開
ニーズとシーズの会はユニークな活動を展開
 今回の参加メンバーは実に多彩であった。ドイツのヘレウス社は創業140年という老舗であるが、工業用ランプ、導電性ポリマーなどを扱っており、初参加であった。エネルギー大手のJX日鉱日石エネルギーも「ポスト化石燃料を狙え!」という意気込みで液晶ポリマー、高分子材料を扱う機能化学品担当のメンバーが参加していた。四国からは和紙の世界でキャパシタ、セパレータの先端分野を切り開いたニッポン高度紙工業が参加していたが、そういえば同じ四国の阿波製紙もエレクトロニクスの分野にかなり入り込んでいるのだな、と気が付いた。

 その他、ブリヂストン、東洋紡、三井化学、三菱樹脂、関東電化工業など錚々たるメンバーが多く参加していた。ニーズとシーズの会の催しは、筆者も3回目の参加になるが、今時こんなフリーに交流できる会はなく、実に貴重なことだと思えてならない。ちなみに、この会で最近最も参加を集めたセッションは何ですか、と吉野諒氏に聞いたところ「何といっても機能性フィルムをテーマとした時だ。会場は満杯で入り切れない活況であった。みんなここを狙っているのだ」とだみ声の強い言葉が返ってきた。

(ニーズとシーズの会の次回は、5月26日(火)13:00~17:00。テーマはKOBELCO(神戸製鋼所)のR&D戦略=神戸総合技術研究所の見学付きとお得イベント。ゲスト講演は東北大金研の関西センター長の正橋直哉教授による「金属学と化学の融合による環境エネルギー材料の創出」。)


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報 社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長 企画委員長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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