電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第130回

摩訶不思議の女の人、渡邊桃伯子さんが創る小宇宙


~横浜の中小企業のネットワーク化、女性起業支援などに大活躍!!~

2015/4/24

 「頑張る女性の起業をサポートするのが大好きです。横浜を中心に中小企業の業務支援のためのシステムやウェブサイト制作などにも全力を挙げています。とにかく、熱くなっていく人たちを見ていることで興奮し、いつの間にか自分もその輪の中にいて、テンションは上がるばかりです」

 こう語るのは、横浜にあって(株)ともクリエーションズ(横浜市中区元浜町3-21-2、Tel.045-226-3475)の代表取締役を務める渡邊桃伯子(わたなべともこ)さんである。ともこさんは秋田市出身、お父さんは中通病院の病院経営をしていた方であり、いくつもの病院、老人介護施設、看護学校などを育て上げたことで、地元ではよく知られる人であった。また、ともこさんの弟さんは東京大学医学部の胃・食道外科の医師であり、ある雑誌が選定した日本のゴッドハンド100人に入っている腕利きなのだ。ともこさん自身は秋田高校を出て一橋大学経済学部に進み、公認会計士事務所、システムベンチャーなどの職歴を経て、1989年にともクリエーションズを旗揚げする。

 「教育ソフト、簿記ソフトなどを開発するなかで、官公庁や企業、病院などに人脈が広がっていきました。IBMブランドで出した簿記教育CD-ROMの権利を後にIBMから獲得し、“エキスパートへの道”としてシリーズ化し、税務経理協会で販売しました。こうして地歩を築いた後に、ウェブを使った様々なユニークビジネスを考えるようになったのです」(ともこさん)

ともクリエーションズの代表取締役 渡邊桃伯子(わたなべともこ)さん
ともクリエーションズの代表取締役
 渡邊桃伯子(わたなべともこ)さん
 2002年ごろには「商売自慢」というネットショップシステムを開発し、この分野の先駆け的存在となる。この頃は、かの楽天が100店くらいしか開店していなかった時期であり、ともこさんの目の付け所は実に早かったのだ。現状でもこのネットショップシステムは秋田産の銘酒高清水、日の出屋製菓のあられなどの企業に採用されている。ネットショップを作ったことで、ホームページの作成依頼がかなり舞い込んできた。そして多くの女性起業家たちに出会うことになるのだ。

 「女性で起業し成功する人たちは、夫に失踪され、子供を残され、しかしそれをバネにして頑張る、というような例が多かったです。しかし、最近の人たちはビジョンを持って起業する人たちが多いですね。女性の特権は“自分の好き”を起業できるということです。私が付き合っている女性起業家たちも皆ユニークで、わんちゃんの癒しを指導するベンチャー、マタニティーの女性に癒しを与えるベンチャーなど、とにかく面白い人が多いです。女性ベンチャーが起業する場合に最も重要なことは、人間関係です。特に女性同士の関係です。私の観測によれば、女と女でうまくやれる人は、男の人とも必ずうまくやれるのです」(ともこさん)

 “Support you”という集客ツールを開発し、ビジネス関連の賞も受賞している。また、「よこはまNOW」という情報サイトを2010年4月に立ち上げた。このサイトは、横浜で頑張る人を応援したいとの思いで開設したものである。そうこうするうちに、横浜および川崎などその周辺で頑張る中小企業をサポートしたいとの思いが昂じ、2011年1月に「横浜売れるものづくり研究会」をスタートさせ、現在まで20回も会合を重ねている。

 「この研究会を始めたことで、多くの面白い中小企業の人たちに出会いました。新横浜のJMCは、3Dプリンターを駆使してプラスチック成型で活躍しています。24時間以内に受注し作り上げてしまうのですから、脳外科の手術モデルなどには最適なのです。五條発条も横浜のユニーク企業であり、ばねを使った知的な遊具を開発しています。茅ケ崎の由紀精密は止まらないコマを作り、フランスの展示会で無料配布して話題になりました。このコマを見たミナロの緑川社長は、町工場なら誰でもコマを作れるぜと、それなら各社が作ったコマを持ち寄ってコマ大戦をやろうということになってしまったのです」(ともこさん)

 2012年にパシフィコ横浜で開催されたコマ大戦は、その後参加者が爆発的に膨れ上がり、これまでに約1000社がコマ作りを競い合う大会に夢中になってきた。そして2015年2月にはついにコマ大戦世界大会を開催し、初の世界選手権を争うまでに至る。200社がエントリーし、アジアからも多くの参加があり、決勝戦はインドネシア勢と愛知勢の戦いとなった。優勝は愛知勢が獲得した。車部品などの中小企業が多い中部地区代表が、職人魂をかけた死に物狂いの戦いを演じた。たかがコマだが、されどコマなのだ。遊びなのに技術の粋を賭けたのだ。しかしながら、どちらかといえば会場の人たちはインドネシアの人たちを応援していたという。

 「コマ大戦の中で気がついたことは、日本の中小製造業は横のネットワークが弱かったということです。多くの中小製造業は2代目、3代目になっており、取引する大手企業との関係は深いものの、同じ中小製造業同士の横のつながりがなかなか持てなかったのです。コマ大戦大会を通じて参加企業同士の商談がまとまってしまうこともあるのです」(ともこさん)

 コマ大戦を熱く語るともこさんは本業以外に、街づくりのNPO法人横浜コミュニティデザイン・ラボや、中小企業支援のNPO法人神奈川中小企業活性化センターの理事の顔も持つ。

 秋田から出てきた摩訶不思議な女性が京浜工業地帯のものづくりの親父たちを熱くさせている、という運動論は、何と素晴らしいことだろう。京浜エリアにおいても中小企業は口を開けて大手からの発注を待つだけというスタイルから皆脱却したいと考えている。ともこさんが関わってきた様々な運動はひとつの小宇宙を創り上げている。この小宇宙の中にあって、横浜、神奈川のモノづくりは元気印を取り戻していく。また、何かをやりたいという女性たちの起業はますます増えていくのだ。そして何よりも、この活動を耳にした全国の中小企業に勇気を与えるメッセージともなっていくだろう。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報 社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長 企画委員長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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