電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第128回

「仕事は変わっていくものだ。しかし人間は変わらない」


~何回も失敗し、何回も成功した藤光樹脂の小川雅雄会長の語る言葉~

2015/4/10

 「もうすぐ2回目の東京オリンピックの日が近づいてくる。1964年の東京オリンピックの年に22歳の若さで創業したことを思い出す。法政大学を出て、右も左もわからず闇雲にやっていた。もしかしたら、あの時が一番幸せだったのかもしれない」

 遠くを見るような眼でしみじみと語るこの男の名前は小川雅雄という。小川氏は合成樹脂貿易のパイオニアとして知られ、特に近年注目されているIT市場では国内外でトップディーラーに位置する藤光樹脂(株)(東京都中央区築地1-13-14、Tel.03-6278-0561)の会長の任にあるのである。同社のグローバル化戦略は、ここに来てさらに加速している。2005年には成長著しい中国上海に戦略拠点を開設。2006年には天津、2008年には深センおよび香港に営業拠点を設けた。2013年には北米営業所も開設し、グローバルレベルでの事業展開が進んでいる。

 「何も分からない学生上がりの若造がMMMモノマー(アクリル)の販売に乗り出し、何と3000万円の売り上げを上げた。これで約200万円の元手ができたので、ほかのことをやろうと考えた。60年代を象徴するVANジャケットの創業者である石津さんに気に入られ、店のケースを作ってくれと頼まれた。意気込んで取り組んだが、静電気がいっぱい発生し、ものの見事に失敗してしまった。苦い思い出である」(小川氏)

藤光樹脂会長の小川雅雄氏
藤光樹脂会長の小川雅雄氏
 ところが小川氏は、めげるということを知らない。石津さんのコネでイタリアNo.1の家具メーカーであるアルフレックスとお近づきになるのだ。この家具店に置かれるプラスチックのゴミ箱を一手に手がけることに成功する。ざっと7万~8万個は出たという。これでお調子に乗った小川氏は、ステレオの銘板となるアクリルスモークに取り組んだ。これはいわばオンリーワン製品であり、韓国などの大手電機メーカーに採用され、売りに売りまくった。

 「こうした樹脂販売に乗り出したものの、倉庫もなく、車もない。どうやって配送したらいいか分からない。そこで考えたのが大手新聞社の配送車である。配送の大型トラックは、夜間は忙しいものの昼間はほとんど空いている。それを使わせてもらった。普通のことをやっていたら事業は拡大できない、とそのころ思い定めた」(小川氏)

 そうこうするうちに、テレビ向けのアクリルも売れ始めた。いっそ工場を作ってしまおう、と考えた小川氏は30歳にして韓国に300人を擁する銘板工場を立ち上げる。ところがこれがうまくいかない。昔の韓国は職人肌の人が多く、日本製の優秀な機械を嫌う傾向があった。韓国の職人たちは皆、手で研磨したいと言いだし、要するに全然うまく立ち上がらない。

 「製造業なんてやるもんじゃない、と10年間も工場に携わり、ようやく諦めた。現在は専門商社の仕事に特化している。ところで、70年代から80年代にかけて六本木、赤坂などではディスコティックの一大ブームが訪れる。そこで店の内装をポリエステルでやればよい、と考え取り組んだ。黄色の見事な色彩を表そうとしたが、これがみんなどういうわけか赤になってしまう。クライアントからはメチャクチャに言われ、シンナーで磨けば何とかなると考えやってみた。ところが、店の中はシンナーの匂いが充満し、バタバタとみんな倒れてしまう。こりゃーダメだと諦めた」(小川氏)

 失敗したり、成功したりの事例を積み重ねて、今や藤光樹脂は年商約300億円のカンパニーとなった。今後もこの分野におけるトップリーダーの地位を保持していく構えだ。しかして、小川氏は会長ともなり、事業を静観しているかといえば、全然そんなことはない。現状で売り上げの30%が国内、70%が海外であるが、もっともっと海外を増やしたいとして新たな取り扱い素材の調達および開発に入っている。

 秘密保持契約が多いため、現在の開発品については明らかにできないとしながらも、次世代自動車、IT農業、新型のバスルーム、コンビニ向けディスプレーなどアイデアは次々と出てくるのだ。こうした拡大策で売り上げ500億円は狙えるとしている。

 さて、こうした浮き沈み人生を体験し、成功に導いた小川氏は社員に対して何を大切にしろ、と言っているのだろうか。
 「人とのつながりがすべてなのだ。出会った人を大事にし、自分がどのようなアシストをできるかを常に考えることだ。仕事というものは時代に応じて次々と変わっていく。しかして、人間は変わらない。信頼関係も一度築くことができれば、そう簡単に変わるものではないのだ。もし今の若い人に不足していることがあるとすれば、生涯をかけて結び合う人間関係の構築ということだろうね」(小川氏)

 ちなみに、小川会長はかの有名な作家、伊集院静氏のお兄ちゃんなのである。なるほどね、とうなずく読者も多いことだろう。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報 社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長 企画委員長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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