電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第126回

モノづくりを自分たちが理解しなければ製造派遣・請負はできない!!


~EMS事業が売上の7割を占めるnmsの小野文明社長が語る言葉~

2015/3/27

 その男は長崎県出身であり、父親は築地の魚河岸で夜勤もいとわず頑張る働き者であった。東京で育ったその男は、正則高校を出て東洋大学法学部に進み、テキスタイルカンパニーであるロンシャンに入社する。その後、教育・研修をメーンにする企業に勤めていたが、ある日ある時こう思うのだ。

 「こうして一生懸命教えた人の活躍ぶりを見てみたい。成長した姿を見てみたい。それならば教育研修ではなく、人材そのものを扱う仕事に就くべきだ」

 こう考えた男は様々な変遷を経て、2002年に日本マニュファクチャリングサービス(株)(略称:nms=東京都新宿区西新宿3-20-2、Tel.03-5333-1711)という会社の社長に就任した。その男の名前は小野文明という。

 nmsは2007年10月には東証JASDAQ(現)に上場を果たす。2014年3月期の売り上げは419億円であり、4年前の112億円から実に一気右肩上がりの4倍増というミラクルを達成したのだ。国内に31の拠点を持ち、ASEANでも20拠点を展開する。

nmsの代表取締役社長 小野文明氏
nmsの代表取締役社長 小野文明氏
 「事業内容は製造派遣、製造請負、EMS、修理・カスタマーサービス、技術者派遣となっているが、実のところ当社の事業別売上高構成比を見れば、売り上げの71%を占めるのがEMS(エレクトロニクスマニュファクチャリングサービス)なのだ。さらに今後は、パナソニックから譲り受けた一般電源事業の売り上げ154億円が加わってくる。メーカーの技術力を持った人材業という業界初のモデルを徹底的に追求していきたい」(小野社長)

 nmsの現状における売り上げの44%は日本、31%は中国、25%はASEANとなっている(2014年3月期)。つまりは海外売上高が全体の50%超を占める会社なのだ。ヒューマンソリューション事業としての柱は、製造派遣・請負、技術者派遣などが中心となっているが、同社が出色の存在であるのは、本格的な製造業に乗り出していることだ。

 自社工場で家庭用ゲーム機器の修理を行っている。また、2014年10月にはパナソニックの一般電源事業を引き受け、子会社であるパワーサプライテクノロジーをスタートさせた。国内の高圧電源については、何とトップシェアを持つメーカーとなったのだ。また、日立メディアエレクトロニクスからはLED電源、エアコン電源ユニットといった電源事業、高圧発生用のトランス事業、車載用地デジチューナーモジュールの事業などを引き受け、本格スタートさせている。

 「もちろん当社は人材カンパニーとしてスタートした。しかし、モノづくりそのものを自分たちが本当に理解しなければ、製造派遣や製造請負をまともにやることはできない、と考えた。そこで、メーカーとしての道と人材カンパニーの道をクロスオーバーさせるという業界初の領域に乗り出した。ありがたいことに、この考え方が海外および日本でかなり受け入れられつつあるのだ」(小野社長)

 nmsはEMSの日系企業ランキングでは国内5位であるが、モノづくりプラス人材提供の機動性を併せ持つビジネスモデルはまさに進化形であり、今後同社のビジネススタイルは大きな発展を呼び込むことになるだろう。また、EMSを手がけるメーカーとして志摩電子工業の買収や同じくEMS企業であるTKRとの経営統合にも成功している。

 さてnmsは、中長期的に2000億円を達成したいとしている。しかし、小野社長に言わせればこれも通過点に過ぎないという。同社のビジネスモデルを全世界に展開していけば、とんでもないことになるとの予感がある。「本当の敵は鴻海(ホンハイ)だ」と強く語る小野社長の夢は大きく広がってきた。小野社長によれば、日本の宝物はオペレーターレベルの人材力が世界一素晴らしい、ということであり、逆に言えば、これが崩れれば日本の優位性はなくなるとも指摘する。日本で培ったレベルの高い人材育成プラス技術育成のノウハウを中国やASEANなどに展開していけば、EMSにおける新たな革命が起きてくるともいえるだろう。

 「ここに来て大手企業は日本国内への製造業回帰を言い出し始めた。しかしながら、何としてもボトルネックは人手不足なのだ。工場を建てようにも、ラインを増強しようにも、人がいなければどうにもならない。私の考えでは、外国人と女性労働力の活用こそがこのネックを解決する手法だ。当社の工場では託児所を作ることを検討し、女性労働力をフル活用する体制を整えようと考えている。また、日本のモノづくりの粋を教え込んだアジアの人材を、1万人単位で日本に送り込むことも想定している。日本発のモノづくりに徹底貢献し、当社の売り上げが1兆円を超えれば、日本という素晴らしい国の復権に大きく貢献できると、真剣に考えている」(小野社長)


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報 社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長 企画委員長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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