電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
新聞情報紙のご案内・ご購読 書籍のご案内・ご購入 セミナー/イベントのご案内 広告のご案内
第635回

最有力候補となるか、半導体量子コンピューター


SoC化で大規模化に有利、省スペース化や低コスト化も容易

2026/1/9

 「ディープテック」の1つに数えられ、既存の古典コンピューターを遥かに超える演算能力が期待される量子コンピューター。IBM、マイクロソフト、グーグル、アマゾン、インテル、富士通、日立製作所、NECといった大企業やD-Wave Systems、IonQ、Quantinuumなどのベンチャー、それに世界中の大学・研究機関が積極的に開発を進めている。

 量子コンピューターには超電導方式、中性原子方式、イオントラップ方式を含む様々な方式が提案されている。以前、超電導方式による量子コンピューターの動向をまとめた。今回は半導体方式を採用する半導体量子コンピューターの動きを探ってみた。

量子ドット内の電子を制御

 半導体量子コンピューターはシリコン基板を用い、リソグラフィー装置、成膜装置、エッチング装置、洗浄装置といった半導体製造装置で製造する量子コンピューター(「シリコン量子コンピューター」ともいう)。「量子ドット」と呼ばれる微小構造体の中に電子を1つ閉じ込めた人工原子を最小単位(量子ビット)とし、これを制御することで「0」、「1」およびその中間(「重ね合わせ」)の値をとる。1量子ビットでは何もできないが、10量子ビット(210)で1024、20量子ビット(220)で105万の組み合わせが可能となる。

 制御方法は外部から磁場などをかけることでスピンさせ、その向きにより0と1、また高周波をかけることで重ね合わせとする。

 既存の量子コンピューターと比較した際の最大の特徴が、量子ビットと制御回路を1つのチップに統合できるSoC化と、これを可能とする極低温環境下でも量子ビットを制御できる極低温CMOS(クライオCMOS)技術の活用だ。すなわち、量子演算回路と制御回路をワンチップ化することが可能となる。

 これにより、配線から発生する熱やノイズを最小限に抑えつつ、将来的には100万~1億量子ビットの大規模化に対応できるスケーラビリティーを実現するとされる。これに対し、既存の超電導方式は0.01ケルビン(マイナス273℃)にある量子ビットと室温にある制御装置を膨大な数のケーブルで接続するため、大規模化が難しいとされる。

 加えて、同方式が巨大な希釈冷凍機を必要とするのに対し、半導体方式は1~4ケルビン程度で動作するため小型冷凍機で済む。これにより、システム全体の省スペース化や低コスト化が容易となり、データセンターや事業所内などへの設置が容易となる。

 一方で、課題は量子ビットの安定性(コヒーレンス時間)とエラー訂正技術の実用化とされており、いずれも別方式の量子コンピューターとも共通している。前者は、磁性を有する「シリコン29」によりノイズが発生することで不安定となるもの。これに対し、磁性を持たない「シリコン28」を採用することでノイズ発生を抑え、コヒーレンス時間を延ばすことが検討されている。

 後者は、ノイズにより数千回に1回程度の頻度で起こるエラーを抑える技術を実装するものだ。対策としては、例えば量子ビットを1と0ではなく、111と000とすることで、仮に3つのうちの1つの値が違っても多数決で値が保持する「論理量子ビット」の採用が考えられている。ただし、数百以上の物理量子ビットが必要となるため、実用化にはほど遠いとされる。

 半導体量子コンピューターの研究開発を推し進める企業はインテル、TSMC、日立製作所、blueqat、Quobly、Equal1、Silicon Quantum Computingなど。大学・研究機関ではimec、Leti、理化学研究所、産業技術総合研究所(産総研)、東京大学などが挙げられる。うちEqual1は21年に世界で初めて半導体量子コンピューターの動作に成功したと発表(3量子ビット)。またインテルは23年、12量子ビットを搭載したチップ「Tunnel Falls」を開発し、研究者向けに提供するとアナウンスした。

SEMICON Japanで各社展示

 12月17~19日、東京ビッグサイトで開催された「SEMICON Japan 2025」では、数々の量子コンピューター関連の出展が見られた。その一部を紹介する。

Blueqatの100量子ビット半導体量子コンピューター
Blueqatの100量子ビット半導体量子コンピューター
 Blueqatは、100量子ビット(相当)の半導体量子コンピューターの実機を展示するとともに、協力メーカーとの取り組みを発表した。実機においてはCPUやGPUを統合し、従来方式と比較して大幅な集積化や小型化が可能で、将来的には100万量子ビット以上の集積化を目指すとした。協力メーカーとの取り組みでは、小型冷凍機(0.3ケルビン)で動作させることに成功したとした。また、同社は量子クラウドコンピューティングサービスを展開しており、国内ではキング・テックが取り扱っている。

 Equal1は、GPUサーバーと同等サイズを実現した、6量子ビットのラックマウント型シリコン量子コンピューター「Bell1」を発表した。HPCシステムとシームレスに接続し、オンデマンドの量子クラウドコンピューティングサービスに対応する。また、小型冷凍機(0.3ケルビン)を筐体内に搭載した密閉型冷却設計により、優れたエネルギー効率を実現する。なお、ラックマウント型の量子コンピューターは世界初。

 産総研は文科省の国家プロジェクト「光・量子飛躍フラッグシッププログラム(Q-LEAP)」や内閣府の「ムーンショット型研究開発事業」で進めている研究開発の事例を紹介した。具体的には、FinFET型シリコンスピン量子ビットや量子デバイスシミュレーターの開発や、ノイズ発生源を解明する手法の確立などだ。また、シリコンフィン、SOI(シリコンオンアイソレーター)、埋め込み酸化膜などにより100万量子ビットを実現する集積構造を提案している。


電子デバイス産業新聞 編集部 記者 東 哲也

サイト内検索