サムスン電子は、いまや世界の3強に数えられる大手半導体メーカーになったのであるが、1980年代はその頃、最強の半導体王国であった日本に大きく遅れを取っていた。1990年に世界の半導体市場シェア52%を取った日本企業(NEC、日立、東芝など)の幹部役員は「韓国勢にDRAMなど作れるわけもない」と侮りの気配であった。筆者は、こうした傲慢な人たちを見ていて、いつかえらい目にあうぞと考えていたのだ。
サムスンは、90年代に入ると凄まじい勢いで半導体設備投資を実行していった。日本勢がどんどん下がっていく中で、頑張ったのである。それでも、90年段階においてはサムスンの世界ランキングは第15位にとどまっていた。
直近のこの十数年間においてサムスンは、常に世界ランクで3強の地位になるほどに躍進した。インテルを抜いて世界チャンピオンになったこともあった。しかしながら、最近ではロジックファンドリーもうまく立ち上がらず、台湾TSMCに大差をつけられた。そして、得意とするDRAMにおいてもSKハイニックスのHBMという新型メモリーの分野で大きく水をあけられたのである。
こうした状況下で、サムスン電子は巨大な投資計画を進めることをアナウンスした。今後5年間で韓国の国内向け投資として、研究開発を含むかたちで総額48兆円を投資するというのであるからして、サプライズ以外の何ものでもない。AIブームが進む中で、半導体メモリーが不足しており、これに対応するため新たな半導体製造棟「P5」の建設を推進する。これは、平澤キャンパスにて実行する。この新製造棟は28年から本格稼働する予定なのである。
さらに加えて、子会社のサムスン電機が釜山の拠点においてサーバー用のパッケージとしてFC-BGAの量産をするべく、新たな投資を断行するのである。
こうしたサムスンの巨大投資を横に見ながら、日本企業は指をくわえて待っているだけだろうか。いやいや、そうではない。
ソニーはCMOSイメージセンサーの分野でサムスンと競合しているが、巨大投資でサムスンに大差をつけていく考えだ。そして、NANDフラッシュメモリーで世界チャンピオンの座を争うキオクシアは、岩手北上の第2製造棟に設備を導入し、サムスンを抜いて世界トップに躍り出る考えだ。
サムスン電子と日本の半導体企業は、まことに奇縁な関係であるが、実のところはかなり仲が良いことを筆者は知っているのである。
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泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 取締役 会長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』(以上、東洋経済新報社)、『伝説 ソニーの半導体』、『日本半導体産業 激動の21年史 2000年~2021年』、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。