電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第619回

ポリシリコンの再編再び、供給制限で価格安定化へ


PVの導入拡大で需給逼迫の懸念も

2025/9/12

 太陽電池(PV)の原材料であるポリシリコン(ポリSi)の生産調整が進んでいる。PV用ポリSiの大半を生産する中国では、乱立するポリSi企業を統廃合する動きが出ており、生産量や供給量を最適化することで、価格の安定化を目指している。
 近年、PVの導入量は価格下落を追い風に急増しているが、生産調整によるポリSiの価格上昇が、果たしてPVの普及拡大に吉と出るか、凶と出るか。

サプライチェーンは中国が独占

 近年、次世代型PVとしてペロブスカイト太陽電池(PSC)が注目されており、国内外で商業化の取り組みが活発化している。もっとも、昔も今もPVの主流は結晶Siで、IEA-PVPS 2024の分析によると、2023年におけるPVモジュールの生産量(612GW)の98%が結晶Siである。

 そして、サプライチェーン全体を眺めてみると、ポリSiの生産量の92%を中国が占めており、セル、モジュールについても、中国のシェアはそれぞれ91.8%、84.6%と極めて高い。これで見る限り、PVのサプライチェーンは中国が完全に支配しており、現実的には、他国が参入する余地はほぼないと言っていいだろう。

 結晶Siが高い競争力を維持し続ける最大の要因は、変換効率が高く、耐久性に優れるからだ。現在、結晶SiベースのPVセルはTOPCon(Tunnel Oxide Passivated Contact)、HJT(ヘテロ接合)、さらには、HJTとIBC(バックコンタクト)を組み合わせたHBCで高い変換効率を実現しており、中国LONGiは、25年4月にHJTとIBCを融合したHIBC(Hybrid Interdigitated-Back-Contact)セルで27.81%(セル面積133.63cm²)の変換効率を達成した。単接合型の結晶Siでは世界最高効率になる。

 長年の課題だったコストも、近年は急速に下がっている。20~22年ごろまではWあたりのコストが0.2ドル前後で推移していたが、24年には0.08ドルまで下落した。PVのコストが下がったことで、他の電源に対する競争力が向上し、PVの導入量がさらに加速するという好循環が生まれた。

 ちなみに、IEAの速報値では、24年における世界のPV導入量は最大602GW(SolarPower Europeは597GWと算出)で、23年に対して3割増加した。前年から成長率は鈍化したものの、24年も高い成長率を達成した。そして、25年はミディアム・シナリオによる導入量を655GWと算出するなど、引き続きプラス成長を維持する見込みだ。

価格下落でPV企業は苦戦

 PVの導入量が急増する一方で、PV企業の業績は芳しくない。Jinko Solar(中国)は24年度(24年12月期)のPVモジュールの出荷量が業界トップの92.9GWで、前年比では2割増加したが、売上高は逆に2割減少した。モジュール価格の下落で粗利益率が悪化したことから、営業損益は4億6900万ドルの赤字だった。

業界トップのJinko Solarも業績が低迷
業界トップのJinko Solarも業績が低迷
 25年度に入っても業績は低迷しており、25年1~3月期の売上高は前年同期比で4割減少し、粗利益率がマイナスになったことで、営業損益は3億9500万ドルの赤字となった。Canadian Solarも25年1~3月期は売上高が減少し、粗利益率が悪化したことから、前四半期に続き営業赤字となった。LONGiも24年度(24年12月期)は純損益が大幅な赤字となった。

 ポリSi企業も業績が低迷している。中国のPV用ポリSi大手のDaqo New Energyは、24年度(24年12月期)の売上高が前年同期比で半減し、粗利益率が大幅なマイナスになったことから、5億6400万ドルの営業赤字となった。ポリSiの平均販売価格は前年同期から半減(5.66ドル/kg)し、22年比では8割近く下落したという。

 25年度に入っても業績低迷が続いており、1~3月期、4~6月期のいずれも1億ドルを超える営業赤字だった。1~3月期の粗利益率はマイナス65.8%だったが、4~6月期はマイナス108.3%まで悪化した。4~6月期の販売量は前年同期比6割減で、2万tを大きく割り込んだ。4~6月期の平均価格は4.19ドル/kgで、25年に入っても下落が続いている。

 Wacker Chemie(ドイツ)もポリSi事業が低調だ。25年4~6月期のポリSi事業の売上高は前年同期比6%減で、EBITDAは前年同期比4割減だった。超高純度の半導体用ポリSiの販売は好調だったが、PV用ポリSiの販売量は伸び悩んだ。

設備の統廃合で生産能力削減

 Bernreuter Research(ドイツ)の調査によると、PV用ポリSiは21~22年に需給が逼迫し、スポット価格が39ドル/kgまで上昇したことで、多くの中国企業がポリSiビジネスに新規参入した。そして、既存メーカーの生産拡大も相まって、ポリSiの生産能力は急速に拡大し、24年末の時点で生産能力は325万tまで膨れ上がったと分析している。中国のシェアも93.5%(PV用では95%)に達した。

 ところが、生産能力の急拡大により、在庫が24年末に40万tまで積み上がり、中国における市場価格は4.5ドル/kgまで急落した。販売価格がキャッシュコストを下回ったことで、多くのポリSiメーカーは損失を計上する結果となった。

 こうした状況を改善するため、24年末には中国の大手ポリSiおよびPV企業33社が減産に合意したというが、Reutersの報道によると、業界再編の一環として、ポリSiの生産能力の約3分の1を買収して閉鎖するため、中国企業各社が500億元(70億ドル)規模の基金創設を協議しているという。なお、閉鎖の規模は100万t規模になる見込みだ。

 実は、ポリSiの再編は今回が初めてではない。Bernreuter Researchによると、10~13年に実施された第1波の再編では13万5000t、18~20年の第2波では27万5000tがそれぞれ削減されたという。ただ、今回の再編では、過去の規模を大幅に上回る能力削減が計画されており、競争力のない多くの企業が市場撤退を余儀なくされる見通しだ。

 ちなみに、SolarPower Europeのミディアム・シナリオでは、25年におけるPVの年間導入量を655GWと算出しているが、26年以降も導入量は拡大し、29年には930GWまで増えると予測している。ポリSiの生産調整がこのまま続いた場合、28年ごろには逆に需給が逼迫する可能性があるとBernreuter Researchは指摘している。

電子デバイス産業新聞 編集部 記者 松永新吾

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