電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第618回

JSファンダリ、わずか2年半で幕引き


不利な6インチライン、顧客獲得に苦戦

2025/9/5

 独立系ファンドリーの(株)JSファンダリ(東京都港区)が2025年7月14日に東京地裁に破産を申請し、同日付で破産開始決定を受けた。負債総額は約161億円。パワー半導体を主体とする新生ファンドリー企業として2022年12月に設立され、大きな注目を集めていたが、パワー半導体市場の低迷、ならびに米中デカップリングに翻弄され、設立からわずか2年半で経営破綻した。

 JSファンダリは(株)マーキュリアインベストメントや(株)産業創成アドバイザリーの出資のもと設立され、新潟工場(新潟県小千谷市)を中心にファンドリービジネスを展開していた。新潟工場はもともと、1984年に三洋電機の半導体製造拠点として設立。同社の半導体事業を支える主要工場として機能していたが、04年の新潟県中越地震で被災。同工場も震度6強の地震に見舞われ、生産ラインは大きな被害を受けた。これがきっかけの1つとなり三洋の半導体事業も低迷。11年にオンセミに事業売却を行っていた。

 その後、オンセミは生産拠点再編の一環として、新潟工場の売却意向を表明。ただ、コロナ禍や地政学的リスクが増大した時期であったことも重なり、入札作業は難航。紆余曲折を経て、JSファンダリへの売却が決まった。

 新潟工場は6インチを主体に月産4万枚の生産能力を保有。設立当初はオンセミ向けの生産を継続し、その後はファンドリービジネスを拡大させていく計画を描いていた。ただ、6インチラインであるために競争力が低いことに加え、海外系パワー半導体メーカーの受注獲得を目指したが、米中対立の影響に伴う地政学的な変化も事業運営にネガティブに働いた。

 設立当初、25年の立ち上げを予定していた8インチ投資も頓挫。工場稼働もなかなか上向かない状態が続いていた。24年1月には社長交代も発表。設立当初から同社を率いていた岡田憲明氏が退任し、新たに酒井明彦氏が社長に就き、リスタートを切っていた。ただ、業績面では厳しい状態が続いていたとみられ、東京商工リサーチによれば23年12月期の売上高31.4億円に対し最終赤字は13.7億円。パワー半導体市場全体の低迷も追い打ちをかけ、今回の破産申請に至ったものとみられる。

わずか2年半での経営破綻となった
わずか2年半での経営破綻となった
 今回の措置を受けて、500人を超える従業員も解雇されたとみられ、地域経済への影響も懸念される。工場がある小千谷市も宮崎悦男市長が声明を発表。「従業員を即時解雇したことは大変残念。可能な限り雇用が継続される方法を見出すため、関係者から情報収集し協議をしている」とメッセージを公開した。

 JSファンダリの新潟工場内には、工場建屋やクリーンルームを借りて操業する別の事業会社もあり、今後の影響が懸念される。パワー半導体大手のサンケン電気(株)もその1社だ。同社はパワーモジュールの増産を目的に、23年5月にJSファンダリ新潟工場内に新潟サンケン(株)を設立。生産設備の導入を進め、24年からEVトラクションモーター用パワーモジュールの生産を開始していた。

 また、(株)JVCケンウッドも久里浜工場(神奈川県横須賀市)の稼働終了に伴い、反射型液晶デバイス(LCOS)の生産をJSファンダリに移転していた。クリーンルームの一部を賃借して、24年から量産しているとみられ、今後の生産活動に支障をきたす恐れがある。

 一括りにはできないが、JSファンダリに代表されるようにパワー半導体市場は厳しさを増している。EV市場は中国を除き低迷、これまでの積極投資から一転、各社は投資にブレーキをかけている。ルネサス エレクトロニクスはシリコンIGBTとSiCの開発を中止。これに伴い、高崎工場でのSiC生産・開発ラインをすでにリリースしているほか、300mmラインの甲府工場も量産開始時期のめどが立たない状況が続いている。ロームもSiC分野に対する設備投資額を減額している。

 その一方で、中国勢はウエハーからデバイスまでサプライチェーン全体で競争力をアップさせ、グローバルでの存在感も強くなっている。もともと、国内半導体産業の再興に向けた切り札と期待されていたパワー半導体市場であるが、中国勢の台頭に伴う市場環境の激変によって、その勢いは失われつつある。


電子デバイス産業新聞 編集長 稲葉雅巳

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