電子部品大手の一社であるTDK(株)。2013年度売上高は9845億円。14年度は第1四半期が2375億円、第2四半期が2648億円、第3四半期が3004億円と推移し、3四半期累計で対前年度比8.2%増の8027億円を記録した。今年度通期では、ついに1兆円超えの1兆800億円を計画。残り第4四半期を控え、計画達成を射程距離に捉えた。この強力な事業推進力の源泉について、社風や人材および新人教育など、内面から探ってみた。常務執行役員の逢坂清治氏に話を伺った。
―― TDKに入社した理由は。
逢坂 実はもう一社、他メーカーからも内定をもらっていた。迷いが生まれ、父親にアドバイスを仰いだ。成長を遂げた企業より、成長途上の方が面白い。この一言で、迷いが吹っ切れた。
―― 実際に入社した感想は。
逢坂 極めて型破りな会社。もともとの社名が東京電気化学工業で、これは東京工業大学(東工大)と同大設置の学科である電気化学科に由来して命名されたものだ。具体的には東工大の電気化学科で、日本の独自発明の1つである磁性材料「フェライト」が生まれた。当社誕生のミッションはその事業化で、いわば日本における大学発ベンチャーの先駆けでもある。極めて型破りとは、今もなお、創業時のベンチャー精神が健在であることを意味する。
―― TDKにおけるベンチャー精神とはどのようなものですか。
逢坂 成長のエネルギーだ。いくら精緻な人事システムや教育システムを社内で構築しても、人材は育たない。人は成長のエネルギーを得て、初めて育つ。その活力が会社の業績を伸ばし、会社の成長エネルギーがまた人材を育成する。当社のベンチャー精神とは、この正の連鎖である。
―― 右も左も分からない新入社員には、その精神を会得するのが難しいのでは。
逢坂 当社の社章マークはダイヤモンドだ。新入社員はまだダイヤモンドの原石のようなもので、原石は磨いてこそ、輝き出す。営業でも技術でも分野は問わない。新人は厳しいお客様、高度な技術やモノづくりに正面から向き合い、その成就のために苦労を重ねる。それが成長のエネルギーとなり、やがて原石は輝きを増していく。
―― 今年度売上高が1兆円の大台に乗りそうです。さらなる成長に向けて、新人も含め、期待する人材像とは。
逢坂 当社は09年にドイツの大手電子部品メーカーであるEPCOSを買収し、完全事業統合に取り組んできた。6年経過した現在、この統合は製品、市場分野、地域において完全な相互補完を実現している。またコンピタンスの相互補完としてTDKは高度な材料、製造プロセス技術、EPCOSは顧客ニーズを取り込む製品デザインで優れている。今後我々が目指す部品事業とそれを支える人材像はその両刀を駆使して世界のICT、自動車、エネルギー分野の顧客ニーズに即応する部品屋である。
―― 国内外の市場比率は。
逢坂 売上比率でいえば、海外90%、国内10%である。ただしそれは最終納入地域の比率であり、顧客ニーズを取り込むデザイン・イン市場としては自動車では国内、欧州、ICTでは米国、日本、エネルギーでは欧州、中国などグローバルに展開している。将来のIoE(Internet of Everything)への展開をにらんだ時、最先端品や高信頼性/高付加価値を創出する国内市場の重要性は高まると見ている。
―― 電子デバイス産業は、IoEの世界に向かって歩み出しました。TDKはどう舵を切るのでしょうか。
逢坂 当社が得意とする3大主要市場が、ICT(情報通信技術)分野、自動車分野、そしてエネルギー分野である。この3大主要分野を極めることで、IoEマーケットを攻略できると考える。ただ、IoEそのものは、巨大なアルゴリズムの集合体だ。TDKはそのアルゴリズムを物性に転換する多種多様な電子デバイスの提供、これこそが当社の仕事である。フェライトの事業化を目的に誕生したTDK、磁性体に関しては決して他社の追随を許さない。
(聞き手・本紙編集部)
(本紙2015年3月5日号14面 掲載)