得意のインターフェース向けLSIをコアに、情報伝送やAI・IoTソリューションで躍進中の(株)ザインエレクトロニクス(東京都千代田区)は、新中期経営戦略「Innovate100」を策定し、2027年度(27年12月期)に売上高100億円超、ROIC(投下資本利益率)10%超を目標に、顧客ニーズに応えた新製品開発などに精力的に挑む。代表取締役社長の南洋一郎氏に、現状の取り組みや新中計目標達成に向けた手応えなど幅広く伺った。
―― 25年度から新中計が始動します。
南 少子高齢化が加速し、日本市場でも人手不足が社会課題となるなか、AIの社会実装による生産性向上が急ピッチで進み、特にエッジAI活用のユースケースが増えるとみている。22~24年度の中計「5G&Beyond-NE」で確立してきた半導体やAI/IoT(AIoT)ソリューションなどを通じ、設備産業にも事業の裾野が広がりつつあり、子会社のキャセイ・トライテック(株)(7月から社名をザイン・モバイルテック(株)に変更予定)で新たな大口案件(25年度から出荷開始予定)を受注するなど、明るい材料も出てきている。このため、新中計初年度の25年度は増収増益を見込み、売上高は前年度比38%増の64億円、営業利益は3.8億円(前年度は2800万円)を見通している。
―― 27年度に売上高100億円超を目指されます。
南 売上高100億円のうち、LSI事業で50億円(24年度は全社売上高中63%)、AIサーバーを含むAIoT事業で50億円(同37%)の達成を目標に掲げている。前述のとおりAIの社会実装による生産性向上、それを支えるデータセンターの飛躍的な計算量拡大に伴い、消費電力の削減が至上命題となる。こうしたニーズを捉えた製品群を着実に提供することで目標の達成を果たしていく。
―― 製品群について。
南 生産性向上に向けては、配線集約型LSIのシリアル・トランシーバー新製品「IOHA:B」が、消費電力削減向けには開発中の光半導体が挙げられる。IOHA:Bは、大量の配線ケーブルを少ない本数に集約可能なLSIであり、43億通りの接続に対応し、設計プラットフォーム化に貢献する。省人化にもつながることから、引き合いが増加している。また、光半導体は世界初となるVCSEL対応のDSPレス超高速チップセットソリューションであり、次世代PCI Expressに対応する。データ送受信時電力を60%削減し、遅延時間も90%削減することが可能だ。AIサーバー/AIデータセンターにおいてAI処理速度向上が期待でき、欧州を筆頭に海外からも高評価を得ている。開発に時間を要することから、市場投入は28年以降になるだろう。
―― エッジAI向けは。
南 LSI事業とAIoT事業の協業によるEdgeAI-Linkワンストップ・ソリューションが、AI処理ができ、かつ個人情報流出の心配なく顔認証や店舗マーケティング、ドライブレコーダーなどに活用できると好評である。エッジAI処理/NPUを司るSoCはクアルコム製を採用し、カメラユニット内、エッジAI処理メーンユニット内の高速伝送用LSI、パネルユニットのディスプレー表示用LSIは当社製LSIを使用している。
また、エッジAIの活用を志向する顧客層向けに、こうした各種LSIをキット化して提供するなど、ASICから一貫で担える当社ならではの貢献も検討している。一方、当社主力の高速インターフェースLSIでは8Gbps伝送を実現する「V-byOne HS plus」を上市するなど技術改善を重ねている。
―― AIoTでもユニークな製品が目白押しです。
南 25年からスマートメーター向け無線通信技術のサンプル提供を開始し、近く量産開始予定であり、売り上げへの貢献を期待している。根強いニーズがあるビデオコール端末(見守り端末)「CTV-003」、24年度から提供を開始したクラウドSIM対応でLTEモジュール内蔵の産業用コンパクト型LTEルーター「CTL-005」など顧客ニーズに応えながら拡充中である。サーバーでは25年度内にNVIDIA B200 HGX GPU搭載モデルの水冷8U AIサーバーの提供開始を予定している。
―― 伸長あるのみですね。
南 当社ならではの強みが活きる尖ったニーズにフォーカスしながら、LSIとAIoTの両輪で新中計の目標達成に邁進していく。光半導体など将来の成長につながる製品開発も重要であり、研究開発費は前年比で約20%増のペースを維持していく所存である。スマートにつなぎ、地球的負荷削減に向けて当社の製品群で貢献していく。
(聞き手・高澤里美記者)
本紙2025年3月27日号3面 掲載