電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第613回

ニッポン半導体の引っ張り役は常にソニーであったのだ!


トランジスタラジオからはじまり、CMOSセンサーに展開し、過去最高利益

2025/2/21

 ソニーグループは2025年3月期連結業績予想を公表したが、売上高は前期比1.4%増の13兆2000億円を達成する見込みである。そしてまた驚くべきは、純利益は1兆800億円となり、過去最高が見込まれているのだ。好調な原因はなんといっても主力のゲーム事業が良かったことであり、CMOSイメージセンサーを中心とする半導体事業もスマホ向けや車載向けなどに支えられ、利益に貢献したのである。

 さて、半導体産業のはじまりはなんといっても1947年12月23日、米国ベル研においてトランジスタが発明されたことによるのだ。しかして、このトランジスタの応用についてはほとんどの会社がビッグアプリを見出すことができなかった。ところが、1946年(昭和21年)に設立された東京通信工業(現在のソニー)は小さな町工場にすぎなかったが、世界初ともいうべきトランジスタラジオを発表し、国内外を驚かせるのである。ソニーは驚異のスピードでトランジスタを事業化し、数年間にわたって世界トップの半導体メーカーとして君臨するのである。

 こうしたソニーの活躍に刺激されて、NEC、富士通、東芝、日立などの国内電機大手はソニーを追撃すべく、凄まじい勢いでトランジスタの開発に邁進する。

 時移り、1980年代に入ると日本の半導体メーカーはメモリー半導体を中心にマイコン、ASICなどを中心に世界を席巻していく。そして、1990年段階で世界シェア53%を獲得し、半導体大国ニッポンを作り上げるのである。

 ところがどっこい。その後、インテルを中心とするアメリカ勢に逆転され、韓国サムスンそして台湾TSMCなどのアジア勢が急追したことにより、日本の地位は揺らいでいく。三十数年間にわたり、負けて負けて負け続ける。現状にあっては、世界シェアは10%を切っており、これに連動するように30年間給料の上がらない最低の国ニッポンは世界にその汚名を知られることになったのだ。

 これではいけないとばかりに、国家半導体戦略カンパニーともいうべきラピダスの新工場を北海道千歳に立ち上げ、10兆円ともいわれる巨大投資を実行し、日本初の大型シリコンファンドリーを立ち上げることによって、もう一度半導体大国への挑戦を開始しようとしている。その一方で、熊本県下に事実上の半導体世界チャンピオンである台湾のシリコンファンドリーTSMCの第1工場、第2工場(トータル投資額3.2兆円)を誘致することで日本国内の半導体生産額を引き上げていくことに成功したのである。

ソニーの半導体主要生産拠点の長崎テクノロジーセンター
ソニーの半導体主要生産拠点の長崎テクノロジーセンター
 こうしたあらゆる動きの中で、ソニー半導体だけは常に業界を引っ張る存在であった。ソニーが世に出した画期的な製品はトランジスタラジオにはじまり、テープレコーダー、カセットデッキ、ウォークマン、ハンディカム、プレイステーションなどさまざまにわたるが、これを実現させたのはすべてソニーのオリジナル半導体であったのだ。半導体なくして、世界でただ1つのものを作ることはできない、という根本思想がソニーにはあるのだ。

 人間の目にあたる半導体センサーであるCMOSイメージセンサーについては、ソニーは世界シェアの6割を獲得すると明言している。現状においても、世界のスマホのカメラモジュールに使われているCMOSイメージセンサーはソニーがシェア8割を持つという凄まじさなのである。ソニーこそがニッポン半導体を強烈に引っ張る主役であることは、過去・現在・未来において間違いのないことであると言っておこう。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 代表取締役 会長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』(以上、東洋経済新報社)、『伝説 ソニーの半導体』、『日本半導体産業 激動の21年史 2000年~2021年』、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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