半導体テスター大手、(株)アドバンテストの勢いが止まらない。想定を上回る需要が続き、2024年度(25年3月期)の売上高予想は、四半期ごとに増額修正を行う異例の事態に発展。民生や車載、産業機器向けが低迷するなかで、AI用半導体のテスト需要が業績の大きなドライバーになっている。「過去の経験則に当てはまらないことが足元で起こっている」と語るのは、同社代表取締役兼経営執行役員社長 Group COOの津久井幸一氏。同氏に今回の業績急拡大の背景、今後の見通しについて話を聞いた。
――まずは直近決算でも業績予想の大幅な修正を発表されました。
津久井 24年度上期(4~9月)決算発表時点で、売上高は6400億円を計画していたが、今回これを過去最高となる7400億円に引き上げた。増額修正は今期3度目となり、毎四半期上方修正を行っていることになる。4月の期初予想では売上高5250億円を計画していたが、結果的に2000億円以上の上ぶれとなっている。
――過去に見たことがないような修正幅です。
津久井 もともと、半導体テスター市場は23年にダウンサイクルに入り、24年に入ってもこれが長引くと考えていた。実際にスマートフォンなどの民生市場や車載、産機向けの需要は今でも低調だ。しかし、AI用半導体だけが違った。状況ががらっと変わったのは24年の7月だ。
――具体的には。
津久井 現在主流のAI用半導体を見ればわかるが、劇的にデバイスの複雑化が進んでおり、これによって歩留まりの安定化が大きな課題となっている。そのため、テストの回数やテストタイムなどを増やす必要が一気に増した。
AI用半導体の需要が強いのはもともとわかっていたが、民生や自動車など他の市場が弱いこともあり、当社の主力SoCテスター「V93000」を顧客であるファンドリーやOSATのなかで「使いまわす」「切り替える」動きが出ることで、新規のテスター需要になかなか結びつかないのではないかと考えていた。しかし、蓋を開けてみると我々の経験則が当てはまらないようなかたちで、新規需要が一気に噴き出した。
――今回のような急な対応は半導体メーカーが決めているのですか、それともファンドリー、OSATの主導ですか。
津久井 双方だと思う。成熟デバイスはOSATに一任されるケースもあるが、最先端デバイスは一緒になって作り込んでいる印象が強い。そういった意味でも、ファブレス・ファンドリー・OSATすべてのプレーヤーに広く浸透しているV93000というプラットフォームは大きな強みになっている。
1999年にV93000をリリースし24年に25周年を迎えたが、これまでに累計で1万台以上の出荷実績がある。特に高性能デバイス向けに採用が拡大している「V93000 Exascale」をリリースして以降は、インストール台数の伸びが急峻だ。5000台の到達には18年かかったが、1万台の到達はわずか6年で達成している。
――歩留まり対応ということもあり、成熟化すればテスターが余剰化するリスクもありそうです。
津久井 そのリスクは常にある。ただし、デバイスの複雑性は止まらないと思う。3Dやチップレットなどの市場はまだ始まったばかりだ。メモリーもHBMを筆頭にチャレンジングな試みが始まっているが、思ったほど歩留まりが上がらないなどの課題にも直面している。テストタイムをどう短縮していくかなどを顧客と議論しているが、このままではデバイスが高価になりすぎて産業界が成立しなくなってしまうのも確かだ。いろんな意味でテストに対する重要性が高まっているのを実感している。
――半導体テストのバリューチェーンにおける付加価値はどこに集まりそうですか。
津久井 どうしても前工程(ウエハーテスト)への比重が高まってくることになると思う。なぜなら、AI用半導体をはじめチップが非常に高価になっており、後工程のファイナルテストで不良が見つかると経済的なダメージ・損失が大きくなってしまうからだ。そのため、個々のダイの歩留まりをどれだけ上げられるかといった前工程へのテストニーズが拡大している。今後は前工程テストの一環として、ベアダイをテストするダイレベルテストといった市場も立ち上がってくると考えている。
――プローブカードメーカーとの協業もその一環ですか。
津久井 イタリアのテクノプローブおよび米国のフォームファクターへの少数持分投資と、両社との提携パートナーシップ契約の締結を発表した。提携を行う2社はともに半導体用プローブカードの大手サプライヤー企業だ。以前はプローブカード分野に自ら進出することを検討した時期もあったが、非常に強い立場を持つ既存のサプライヤーと組んで、今後の課題解決に努めていくのが一番の近道であると判断した。協業内容は今後詳細を詰めていくことになるが、プローブカードの技術開発はもとより、ボトルネックの1つとなっているプリント基板分野での協業も図っていく。
――具体的には。
津久井 プローブカードもAI用半導体などの高性能デバイスの登場により、カード内部に用いるプリント基板の高度化(高多層化)が求められている。当社は21年にテスター用インターフェースボードの設計・開発・製造を行う米国のR&D Altanovaを買収したほか、23年に台湾のプリント基板メーカーであるShin Puu Technology社も傘下に収めている。現在、R&D Altanovaの高性能基板設計技術を活かすべく、Shin Puu社の生産キャパシティーの拡張を行っている。今回のプローブカードメーカーとの協業でも、当社のプリント基板製造技術およびキャパシティーを有効に活用していく考えだ。
――急激な需要増に対して、生産・調達体制が果たした役割も大きいですか。
津久井 当社社員やサプライヤーの皆さまの努力のおかげで、ここまで行けたというのが正直なところだ。キャパシティー的にこういう実力があるということを示せたと思っている。我々も20~21年に部品調達で大きな課題に直面し、サプライチェーンの改善・改革を進めてきた。コア部品の長期契約のほか、部品調達先のマルチソース化、協力工場の拡充・強化を進めてきた。大きくV93000はEMSを活用したアウトソースモデル、メモリーテスターは自社工場と協力工場を組み合わせたハイブリッドモデルで、ものづくりの手法が異なるが、一部で部品の共通化も進めるなどしており、インテグレーションも進めている。
――最後に25年の市場見通しを教えて下さい。
津久井 第3四半期決算発表にあわせて、25年(暦年)の半導体テスターの市場規模予想を示したが、ガイダンスのレンジはやや幅を持たせたかたちとなっている。上期の確度は高くなっているが、各市場の需要に加え、地政学リスクによる環境変化も十分想定できることから、下期は不透明感が強い。ただ、先ほども申し上げたとおり、テストの重要性が高まっていることは間違いなく事実であり、こうした課題解決を通じて事業機会をさらに広げていきたい。
(聞き手・編集長 稲葉雅巳)
本紙2025年2月13日号1面 掲載