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第589回

2024年太陽光発電10大ニュース、導入量が500GWに


PSCの商業化が加速、結晶Siは効率改善進む

2025/2/7

 2024年の太陽光発電(PV)は導入量が500GWに達したもようで、前年から成長率は鈍化したものの、順調に普及拡大が進んでいる。技術開発では、ペロブスカイト太陽電池(PSC)に代表される次世代PVの開発が活発化しており、国内でもPSCの量産工場の建設が進んでいる。今回は24年の10大ニュースを選出するとともに、25年の市場および技術動向を展望する。


(1)24年のPV導入量500GW

 IEA(国際エネルギー機関)の調査によると、23年における世界のPV導入量は456GWで、前年比では約2倍に拡大したが、24年はさらに導入が加速し、469~533GW(InfoLink調べ)に達したもよう。中国、欧州、米国、インドの4地域で世界全体の8割を占めており、引き続き中国が最大市場(24年の導入量は240~260GW)となっている。


 25年もPVの導入はプラス成長を維持するが、主要市場では景気低迷や政策の不透明さ、需給のミスマッチなどの課題に直面していることから、成長率は鈍化する見込みで、InfoLinkでは、25年の導入量を24年比5~7%増の492~568GWと試算している。
 中国と米国は前年と同水準の導入にとどまるが、欧州とインドは前年を上回る導入が期待できるとしている。

(2)積水化学工業、PSCの量産工場建設

 積水化学工業がPSCの事業化を決定し、生産&販売を行う新会社の積水ソーラーフィルムを設立した。大阪府堺市にあるシャープ本社工場(地上5階建て延べ21万m²)を活用し、フィルム型PSCの量産ラインを整備する。

 第1弾として、27年度に100MWの生産ラインが稼働するが、26年度以降、さらに100MWの生産ラインを追加整備する。さらに、27年度以降に600~800MWの生産ラインを導入し、30年までに1GWの生産体制を構築する。総投資額は3145億円となるが、半分の1572億円は経済産業省の「GXサプライチェーン構築支援事業」の補助金を充てる。

 積水化学工業は現在、ロール・ツー・ロールで製造した30cm幅のPSCモジュールで変換効率15%を実現している。まずは、既存設備を活用して、25年度から30cm幅のPSCモジュールを少量生産するが、27年に稼働する新工場では、1m幅の大型モジュールを生産する予定だ。

PSCの量産工場建設を発表(積水化学工業)
PSCの量産工場建設を発表(積水化学工業)
 なお、倉元製作所も中国企業からPSCの量産設備および生産方式を導入して、岩手県一関市の花泉工場の一角にPSCの新工場を建設している。また、パナソニックは大阪府守口市に1×1.8mサイズの大型モジュールが生産できる試作ラインを導入済みで、26年にテストマーケティングを開始し、28~29年の量産を予定している。

(3)PSCの国内導入量、40年に20GW

 次世代型PVの導入拡大および産業競争力強化に向けた官民協議会は、24年11月に開催した第8回の会議でPSCの導入に関する戦略案をまとめた。発電コストが16円/kWhを切った段階でPSCの導入が加速すると見ており、7円/kWhでは44GWの導入量が見込めると試算しているが、40年には20GW(原発20基分に相当)の導入を目指している。

 なお、発電コストの低減には、生産量の拡大が不可欠だが、10円/kWhの達成に必要な設備費(約6万円/kW)を実現するための累積生産量は80GW以上と試算している。

 一方、海外市場では、10~14円/kWhの発電コストで導入量は500~1000GW(1TW)に達し、10円/kWhまでコストが下がれば、1TWを超える需要量が見込めることから、海外市場への展開を視野に入れた取り組みが必須としている。

(4)国内スタートアップが相次ぎ資金獲得

 国内のPV関連のスタートアップが相次ぎ資金を獲得している。京都大学発のスタートアップであるエネコートテクノロジーズ(京都府久世郡久御山町)は、24年7月にシリーズCラウンドによる資金調達を実施し、第三者割当増資により総額55億円の資金を獲得した。累計調達額も80億円を超えており、獲得した資金を活用して、PSCの技術開発、さらには生産および販売体制の構築を目指す。

 20年の設立で、CIGSに代表されるカルコパイライトをベースとした次世代PV技術を開発するPXP(神奈川県相模原市)も、24年末にシリーズAラウンドで総額15億円の資金を調達した。このうち、ソフトバンクが約10億円を出資し、PXPの株式の約29.9%を取得した。PXPは獲得した資金を活用して、PSC/CIGSタンデムの早期実用化を目指す。

(5)PSCタンデムが商品化

 PSCの変換効率はすでに結晶シリコン(Si)に匹敵する水準まで向上しているが、さらなる高効率化を目指して、タンデム型の開発が進んでいる。小面積のPSC/Siタンデムセルでは、LONGi(中国)が34.6%、Jinko Solar(中国)が33.84%の変換効率を実現しているが、Q Cells(韓国)はM10(330cm²)サイズの大型タンデムセルで28.6%の変換効率を達成した。

 一方、タンデムモジュールでは、LONGiが25.8%(2054cm²)、GCL Perovskite(中国)が26.3%(40×60cm)、Oxford PV(英国)が26.9%(1.68m²)の変換効率を実現しているが、Oxford PVは24年9月にPSC/Siタンデムモジュールの商業販売を開始した。

 タンデムモジュールはドイツのパイロットプラントで少量生産しており、第1弾として、米国市場向けに出荷した。PSC/Siタンデムモジュールの商業化は世界初になる。現在の生産規模はMW規模だが、将来的には、GW規模まで生産能力を拡大する計画だ。

(6)産総研がPSCの自動成膜装置開発

 PSCは組成や作成条件の組み合わせが多く、同じ条件で作成したセルでも性能のばらつきが大きいという課題がある。そこで、産業技術総合研究所はセル作成の再現性向上、さらには効率的な材料探索を目的とした「PSC自動作成システム」を開発した。

PSCの自動成膜装置(産業技術総合研究所)
PSCの自動成膜装置(産業技術総合研究所)
 開発したシステムは2つの搬送室をPASS室で連結した構造で、自動で前駆体溶液をスピンコート成膜し、さらに貧溶媒を滴下することで、高い再現性で高品質のペロブスカイト発電層を作成できる。ガラス基板の投入後、約4時間でセルが完成するが、作成したセルは安定して18%前後の変換効率を実現し、性能のばらつきも手動で作成したものよりも少ないという。

 また、マイクロジェット(長野県塩尻市)は、インクジェット技術を応用した卓上サイズのPSC塗布装置「PerovsJet」を開発し、販売を開始した。ガラス製のシングルノズルヘッドの採用で、少量の溶液での塗布を実現しており、多種多様な溶液材料を効率的にスクリーニングできる。25年には、より大面積の塗布成膜を実現するマルチノズルヘッドを採用した新型装置を発表する予定だ。

(7)PV企業の収益が悪化

 成長が続くPV市場だが、24年は価格下落により企業収益が悪化した。Jinko Solar、LONGi、Canadian Solarなど大手PVメーカーは24年度上期(1~6月)の売上高が前年同期比でマイナスとなり、利益についても、大幅な減益もしくは営業赤字となった。
 ポリシリコン(ポリSi)メーカーも24年度上期は事業環境の悪化で、中国の上位4社は軒並み純損失を計上したという。

 Jinko Solar 、Canadian Solarは第3四半期(7~9月)も前年同期比で減収減益が続いており、大手ポリSiメーカーのDaqo New Energyも売上高が前年同期比で6割減少し、粗利益率がマイナスになったことで営業赤字となった。ポリSiの製造コストが上昇する一方で、販売価格が急落したことで収益が悪化したが、販売価格が底打ちしたことから、今後は収益改善が見込めるとしている。

(8)米国でPVの生産が拡大

 米国でPVの生産能力増強が進んでいる。SEIA(米国太陽エネルギー産業協会)とWood Mackenzie(英国)の調査によると、米国では24年7~9月に9.3GWのPVモジュール生産能力が追加され、四半期ベースでは過去最高となった。

 アラバマ州、フロリダ州、オハイオ州、テキサス州などで新工場の建設や拡張工場が進み、国内のモジュール生産能力は約40GWに達した。22年にIRA(インフレ抑制法)が成立して以来、生産能力は約5倍に拡大したもよう。また、19年以降、初めてPVセルの生産も再開した。

 米国ではPVの導入も加速しており、24年の導入量は40GWを超える見通し。今後10年間は年間導入量が43GW以上で推移する見込みで、29年末の累積導入量は現在の2倍の450GWに達するとWood Mackenzieは予測している。

(9)n型のシェアが急上昇

 結晶Siセルの高効率技術として、TOPCon(Tunnel Oxide Passivated Contact)、HJT(ヘテロ接合)、IBC(バックコンタクト)などのn型技術が注目されており、市場シェアも急速に拡大している。従来の高効率技術であるp型PERC(Passivated Emitter Rear Contact)は、23年に6割以上のシェアがあったが、24年はn型TOPConへのシフトが急速に進み、24年におけるn型のシェアは7割に達したようだ。

 なお、InfoLinkでは、今後5年間は高効率と低コストを両立するn型TOPConが市場をリードすると見ている。

 n型技術は変換効率の改善も進んでいる。Trina Solarは24年末に産業用の大面積n型Siウエハー(350cm²)を用いた両面発電TOPConセルで26.58%の世界最高効率を達成した。また、SHJセル(210×105mm)で変換効率27.08%を達成し、表面&裏面電極構造の結晶Siセルで初めて、変換効率が27%を超えた。そして、同HJTセルを用いたPVモジュールで25.44%の変換効率を達成した。

 LONGiはHBC(ヘテロ接合&バックコンタクト)セルで27.09%の世界最高効率を実現しているが、24年末には、第2世代のHPBC(Hybrid Passivated Back Contact)技術を採用した新型モジュールで変換効率25.4%を達成した。

(10)OPVは水中や宇宙用途を模索

 OPV(有機薄膜太陽電池)の用途開発が活発化している。理化学研究所は透明電極に添加剤を加えることで伸縮可能なOPVの高性能化に成功したほか、陽極と発電層の界面に酸化銀を挿入することで耐水性が高く、水中でも発電するOPVを開発した。

 名古屋大学は裏面電極にCNTを用いた高耐久のOPVの実証実験を大阪メトロと共同で実施しており、大阪大学は農作物の生育に必要な青色光と赤色光を透過し、光合成への寄与が少ない緑色光を選択的に吸収して発電する波長選択型OPVを開発した。農業分野に応用することで、発電と営農の両立を目指している。

 金沢大学は低温(0℃以下)でも動作するというOPVの強みを活かして、低温環境下でのIoTセンサー電源としての活用を提案している。米国ミシガン大学は、陽子線の照射でもOPVの性能が低下しないことから、宇宙用途でもSiやGaAsを代替できる可能性があると指摘している。


電子デバイス産業新聞 編集部 記者 松永新吾

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