電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第609回

ニデック(株) 代表取締役社長執行役員 岸田光哉氏


事業5本柱を横串一貫で深化
工場など印へ積極展開

2025/1/17

 精密小型モーターをルーツとし、創業から五十余年の歴史を誇るニデック(株)(京都市南区)は、いまや売上高2.3兆円超の世界に冠たる大手電子部品メーカーだ。この偉業を成し遂げた創業者の永守重信氏、その永守氏と二人三脚で歩み続けた小部博志氏からバトンを引き継ぎ、2024年4月からニデック第二の創業を託された代表取締役社長執行役員最高経営責任者の岸田光哉氏。ニデックのDNA「三現主義=現場・現物・現実(現象)」を自ら実践し、世界各地の現場へ寸暇を惜しんで足を運ぶ岸田社長に、新生ニデックについて幅広くお聞きした。

―― 24年を振り返って。
 岸田 創業チームが築いてこられたニデックを受け継ぐことの重みをかみしめながら、自身を含めて新経営チーム各自が世界中の当社拠点へ足を運び、あらゆる角度から棚卸を進めた24年だった。まだその途上であるが、当社にはシナジーを創出するにふさわしいコンポーネントが多数あることを実感している。こうした状況を俯瞰し、今後の成長に向けて、ニデック創業のルーツであるモーターにとどまらず3つの技術領域を新たに定義し、事業5本柱を打ち出した。

―― 3つの技術領域、事業5本柱とは。
 岸田 回るもの・動くもの、熱マネジメント、発電・蓄電・充電・変電という3つの技術領域、そして未来の柱となる事業5本柱「AI社会を支える」「サステナブル・インフラとエネルギーの追求」「産業の生産効率化」「より良い生活の追求(Better Life)」「モビリティイノベーション」である。この5本柱に関しマップ化し、フォーカス領域と事業領域を計画づけるべく、各チームで風呂敷を広げて議論している真っ只中にある。それをもとに、24年度内に25~27年度の中期経営計画を具体的に固める予定だ。
 なお、5つの柱は優先順位付けをせず、横串一貫とし、景況感や各国強弱が変化しても、当社グループ内の豊富な製品群を柔軟にソリューション展開し、お客様ありきで深化させていける基盤を構築していく。

―― モビリティーを5番目に記されています。
 岸田 これまで数年間、全社売上高のうち2%未満のトラクションモーター(eAxle)を前面に打ち出してきた大きな反省から5番目に記している。eAxle事業については、24年10月からは利益重視でGNAD(広州汽車とのJV)とNPe(ステランティスとのJV)に焦点を絞った。25年からは車載用部品事業として拡大させていく方針だ。また、EVトールや航空宇宙など品質や技術を担保する、次なる世界に向かって大きく一歩を踏み出していく。

―― 早速、大胆な布石を打ちました。
 岸田 自動車メーカーやティア1企業から自動運転やeAxle以外のゾーンのシステムに関し、部品やECUなどをグルーピングした統合部品として提案して欲しいというニーズが増えている。そのため、車載制御向けECUなどに豊富な知見のあるニデックエレシスとニデックモビリティの包括的統合、ACIM(家電産業事業本部)チームと欧米の車載既存事業の統合に向けた協議を進めている。また、24年10月からワンオートモーティブ戦略を遂行し、グループ内の車載関連企業15社が結集し、お客様の全貌を皆で共有してさらなる最適提案を実現すべく議論を始めている。

―― 生産拠点の重複は。
 岸田 エレシスは宇都宮に、モビリティは飯田に国内生産拠点を有し、海外にもタイと中国に両社各拠点を持つ。欧州ではエレシスがセルビアに23年に新工場を新設した一方、モビリティは欧州のお客様を有しつつ拠点はこれからという状況だ。ここは相互乗り入れで協力していけないかを検討中である。一方で両社が拠点を有したメキシコは、モビリティの工場への集約を始めている。今後、工場間の枠を超えてグループ間シナジーを創出していく。

―― インドでの新たな動きも注目されます。
 岸田 インドのカルナータカ州バンガロールに組み込みソフトウエアの研究開発センターを24年9月に開設したほか、オートモーティブ集合体の一大拠点として、ニデックインド(株)ニムラナ工場敷地内に第3工場の建設を決めた。24年12月末にキックオフし、投資額や建物規模などを急ピッチで検討していく。インドの自動車産業は現状の500万台規模から30年には1000万台規模へ倍増が見込まれており、能動的に展開していく所存だ。
 また、カルナータカ州フブリに5500万ドルを投じて工場を建設中であり、25年度早期での開業を予定する。MOEN(モーション&エナジー事業本部)が手がける全製品を生産する拠点となる。さらに、インド南部のスリ・シティ工業団地にもエアコン向けモーター工場を先ごろ開設し、25年1月から年産300万台規模で生産開始を予定している。
 このようにインドには包括的に、グループの総力を挙げて取り組める環境がある。25年はインドも大きなチャレンジの一年になる。

―― 投資額も増加ですか。
 岸田 現状の新経営チームでは厳選した投資を行う方向性で規模は求めない。規模よりも収益重視だ。30年度に自律成長による売上高で7兆円、新規M&Aなどで同3兆円、合わせて売上高10兆円の達成を目指していくが、しっかりとした収益力があればこそだ。まずは収益力拡大に取り組みたい。

―― 半導体へのお考えを。
 岸田 半導体調達に関しては、お客様のニーズ次第である。中国では荒波のど真ん中にいたおかげで、中国現地の部品、半導体を徹底的に使ったeAxleが製造できる唯一の日系サプライヤーになり得ている。また次世代eAxle用「8-in-1」のPoC(概念実証)モデルもルネサス エレクトロニクスと共同開発の成果が実証され、今後X-in-1のXが何であれ、柔軟に対応できる選択肢を得られた。一方、ポンプやモーターなどメカニカルな部品は徹底的な内製化を進めている。

―― 水冷モジュールも好調です。
 岸田 AIサーバー向けCDU(クーラント分配ユニット)を米スーパーマイクロと、また次世代通信用サーバー向け水冷システムを富士通と共同開発している。また、CDU向けクイックカップリングもNVIDIAから認定を受け、24年12月から生産・販売中だ。グループ内のTAKISAWAの旋盤加工技術を複合機化することでタクトタイムを劇的に短縮できる点も奏功している。さらに25年以降は半導体冷却用コールドプレート(LCM)の外販にも着手していく。
 一方、MOENでは欧州を中心に、中国、インド、米国でのフットプリントを上げていく。たとえば自然由来の電気を活かしたBESS(バッテリーエネルギー貯蔵システム)に将来の可能性を見込んでおり、フランスの複数拠点を視察した。今後、変圧の重要性が高まるなか、グループ内の各種制御テクニックを活かしていく。そして何より当社お家芸のモーターの効率向上で、世界の電力削減に貢献していければと考えている。

―― 今後の展望をお聞かせ下さい。
 岸田 自身の信条は「オープンアンドトランスペアレント」である。新生ニデックでは各自の弱さを共有し、お互いがサポートし合い、会社の目指す方向性、目的を皆で話し合いながら見出して進んでいける企業文化を醸成していきたい。「オールフォードリームズコミッティー」を立ち上げており、各自が「それは誰の夢なのか、どんな夢なのか、何のために当社に我々は存在しているのか」を意識して世界中の仲間と議論し尽くしている。その成果を新生ニデックのパーパスとしていきたい。チームニデックの躍進にご期待いただきたい。


(聞き手・高澤里美記者)
本紙2025年1月16日号1面 掲載

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