年明け早々から講演ラッシュとなり、繁忙を極めている。そして、熊本から福岡へのロング取材サーキットツアーも始まった。どこへ出かけていても聞かれることは、ただ1つだけ。「新しい年のニッポン半導体はどうなる?」ということだ。
筆者が所属する電子デバイス産業新聞では1月17日に「半導体はどうなる2025」というセミナーを実行しており、詳しくお知りになりたい方はぜひともご参加を呼びかけたいと思う。稲葉編集長を中心とした多くのキーパーソンが大胆かつ細密な予測をされることは間違いのないところだ。
それはともかく、相変わらずの安定感を欠く世界の政治状勢の中で、半導体だけは「戦略物質」として今年も成長は2桁以上が見込まれており、100兆円の大台に乗せていくだろう。ただし、半導体設備投資は横ばいとなり、17兆円程度。各装置メーカーの在庫状況を見ても、弱含みとなっているようだ。
非常に明るい話題もある。ニッポンのユニコーン企業として有名になりつつあるAI開発のプリファード・ネットワークスとクラウドサービス大手のさくらインターネットの2社が、国家半導体戦略カンパニーともいうべきラピダスと協業することが決まったのだ。プリファードが設計を進めるAI半導体は、現在この分野での圧倒的な世界チャンピオンであるエヌビディアの性能を大きく上回るといわれており、2nm~1.4nmのシリコンファンドリーを目指すラピダスと組めばとんでもないことが起きるかもしれない。
さくらインターネットが手がけるAI向けのデーターサーバーにプリファードのチップが搭載されれば、日本勢によるAI強化戦略に大きな弾みがつくことだろう。そしてまた、アマゾン、グーグル、アップルなどは日本国内に大型データセンターを多数建設するわけだから、このインパクトはすごいものがある。さらにエヌビディアと協業を決めたソフトバンクは資金面でこういった動きを支えていく可能性も強い。
東証プライムに上場したキオクシアは、NANDの増産投資と次世代メモリーの立ち上げに意欲
一方、先ごろようやくにして株式上場に成功したキオクシアも株価を2000円台に乗せており(1月8日時点)、さらなる上昇も見込まれている。同社の北上工場第2期棟には第8世代のNANDフラッシュメモリーの量産ラインが立ち上がることになっており、学習、分析に加えて推論にまで展開できるチップが世に出てくる。同社はAIサーバーをこれからの強化ポイントにしており、これからの展開は面白いことになるだろう。また、同社は四日市工場の第7棟でも増産投資を再開しており、NAND以外の次世代メモリー(もちろんAI向け)にも踏み出す意向を表明している。
石破茂氏率いる政府は、今後毎年10兆円以上の巨額をAI/半導体に投入するというアクティブな姿勢を見せており、ラピダスやキオクシアにも手厚い資金の支援を断行していくことだろう。
ただ少し暗雲が立ち込めてきたのが自動車向け半導体である。EV全体の不振は表面化しており、世界の生産・販売台数全体も伸びを欠いている。日本のトヨタは世界ナンバーワンの強みを見せつけているが、ホンダ、日産の経営統合などもあり、必ずしも良いことばかりではない。これを反映し、車載マイコンで世界トップシェアを持つルネサスが従業員のリストラを表明し、今春の賃上げ見送りということになった。
九州においては、TSMCの第1工場が立ち上がり、第2工場の工事にも着手し勢いがついている。熊本県は第3工場についても誘致を進める強い考えがあり、八代エリアの広大な土地を提供するともいわれているようだ。CMOSイメージセンサートップのソニーもまた合志の大型新工場建設にも着手し、拡大を狙っている。北九州においては半導体パッケージ(OSAT)の世界トップASEが進出することで、地元は沸き立っている。
装置や材料のマーケットシェアも高く、サプライチェーンの強い我が国ニッポンは、今年も世界的な“半導体ブーム”の中で、独自の光を放ち続けることだろう。そこに期待したい。
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泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 取締役 会長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』(以上、東洋経済新報社)、『伝説 ソニーの半導体』、『日本半導体産業 激動の21年史 2000年~2021年』、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。