2023年の自動車世界市場は前年比12%増の9272万台となり、ピークの1億台に迫る勢いであった。しかして2024年については変調をきたしており、日本、米国、欧州などの自動車メーカーは後退を余儀なくされているのである。
例えば、世界大手の一角である本田技研工業(ホンダ)の24年度上期(4~9月)における四輪車の販売台数は、前年同期比8%減の177万9000台にとどまった。日本、北米、欧州などの主要市場ではプラス成長となったものの、アジアが前年同期に比べて26万8000台も減るという不調ぶりであった。
とりわけ中国では、23万5000台減となり、かなり深刻な問題となっている。中国は自動車市場としては最大であるが、景気後退はすさまじいものがあり、民間の高額商品購買の意欲は弱くなっている。加えて、自動車にしても半導体にしても、国産化の意志を強く持つ中国政府の方針もあって、EVなどにおいてはこれが加速している。
日系自動車OEMは業績不振、パワー半導体の需要にも影響
世界トップを行くトヨタ自動車も、24年4~9月期の連結業績は売上高が前年同期比6%増の23兆2825億円であるが、販売台数は同4%減の455万6000台となった。日産自動車も、4~9月期の販売台数は同2%減の159万6000台にとどまった。
EVなどのエコカー向けをメーンにSiCパワー半導体の世界トップシェアを狙うロームにも、業績下降という影響が出始めている。同社の24年度通期の売上高は4800億円から4500億円に引き下げられ、前年度比4%減になる見通しである。営業損益は140億円の利益から一転して、150億円の損失となってしまう見込みだ。
自動車向け半導体で強みを持つサンケン電気もまた24年4~9月期の売上高が前年同期比40%減の728億円、営業損失が57億円となった。米国子会社のアレグロマイクロシステムズが連結対象から除外された影響が大きいとはいうものの、自動車業界の変調が強くインパクトを与えているのだろう。
こうした一方で、アクティブな動きも多数出始めている。ロームは自動車部品メーカーのフランス、ヴァレオとのあいだで、トラクションインバーター向けの次世代パワーモジュールの開発で協業を決めた。つまりはSiCモジュールをヴァレオの次世代パワートレインソリューションに提供しようというわけだ。
国内のパワー半導体で第1位の座にある三菱電機は、福岡市のパワーデバイス製作所福岡地区で、パワーデバイス半導体モジュールの組立・検査を手がける新工場棟をこのほど着工した。100億円を投じて、面積あたりの生産性を従来比約2割高めるという。
材料メーカーの動きにも注目するものがある。住友化学はNEDOの24年度「パワーエレクトロニクス用大口径GaN on GaNウェハーの開発」に関する事業に採択された。同プログラムを通じ、6インチウエハーによるパワーデバイスのGaN on GaN量産技術の開発を加速する。
装置メーカーとしての動きでは、ジェイテクトマシンシステムのSiCウエハーを2枚同時加工する研削盤の開発に注目したい。これはウエハー研削時における粗加工と仕上げ加工を同時にできるという優れものであり、生産性向上という点で多くのメリットがあるのだ。
そしてまた、クオルテックはパワー半導体の信頼性評価を行う「パワエレテクノセンター」を大阪府堺市に設立、試験機の設置スペースを現行の1.5倍となる90台分まで対応可能としたのだ。
自動車向け出荷が低調になっていくなかで、パワー半導体メーカー、関連装置や材料メーカーの開発の動きは止まらない。ニッポンの底力はこうした絶え間のない技術開発、研究促進にあるといってよいだろう。
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泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 取締役 会長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』(以上、東洋経済新報社)、『伝説 ソニーの半導体』、『日本半導体産業 激動の21年史 2000年~2021年』、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。