電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
新聞情報紙のご案内・ご購読 書籍のご案内・ご購入 セミナー/イベントのご案内 広告のご案内
第605回

石破政権が推進するAI・半導体分野で160兆円の経済効果というサプライズ


複数年にわたって毎年10兆円以上投入、産業基盤強化を徹底的に図る

2024/11/22

 「半導体による国づくり」という考え方が徐々にではあるが、政府および行政の間に拡がってきた。大体が自民党政権と言えば、何と言っても選挙の票田はゼネコン、農民、医師会などであるからして、ひたすらその人たちが喜ぶような施策をとってきた。言うところの公共工事などは、その最たるものである。

 例を挙げれば、北海道千歳の100万m²に5兆円以上(最大10兆円の予想)という巨額を投入し、国家半導体戦略カンパニー「ラピダス」の工場建設が進められているが、これは事実上ほとんど国民の血税を投入してのことである。(ちなみに、施工は鹿島建設)つまりは、まっことバリバリの公共工事なのである。そしてまた、事実上の半導体世界チャンピオンであるTSMCの熊本第1・第2工場(トータル3兆円以上投入)についても政府は約1兆円を補助すると言っている。(これまた施工は鹿島建設)これも広い意味では、我々の血税をつぎ込む思い切った政府の戦略なのである。

 先の衆議院選挙で過半数を取れなかった自公連立政権はギリギリのところで踏みとどまり、石破茂氏は内閣総理大臣に再任されたのである。はっきり言って、世間の評判は芳しくない。とにかく、脆弱な政権であり強い戦略を押し出すことができない。それより何より石破茂氏そのものに人気がない。最近は、眼鏡などをかけていて一見インテリ風に見せてはいるが、国会で居眠りしている姿をしっかりと見られてしまったのだから仕方がない。

石破総理(写真提供:首相官邸)
石破総理(写真提供:首相官邸)
 ところで、その評判のあまり良くない石破内閣はここにきて、サプライズな事を言い出したのである。それは、すなわちAI・半導体分野の産業基盤を強化すべく、複数年度にわたって10兆円以上を投入すると言明したのだ。何ということだろう。岸田首相の時代には4兆円の予算は確保していたが、今回は少なくとも10年間で50兆円を超える官民投資を誘発して、どでかい経済効果を狙うというのである。これには、様々なことが組み込まれている。

 1つには、熊本県下に舞い降りたTSMC、北九州に舞い降りたASE、仙台に舞い降りたPSMC(これは現在は白紙撤回、ただし他の台湾企業と交渉中)という台湾半導体産業を国内に誘致するという作戦を立て、こうした動きに補助金を出すことでその地域の経済を活発化させるという方策がある。次には、北海道のラピダスに象徴されるような最先端半導体工場を国内に建設する動きを全面支援することもある。

 そのほかにも、ソニーの熊本県合志の37万m²に建てられる大型工場、宮崎県下に建設されるローム・東芝の巨大工場、さらには広島マイクロンの新工場建設、キオクシア岩手の第2工場立ち上げなどにも徹底的な補助金ラッシュをやるというのだ。

 これに刺激される形で京都府知事は、何と「京都シリコンバレー」を新たに作る構想をぶちあげたのである。確かに、京都にはローム、堀場製作所、SCREEN、島津製作所、村田製作所など半導体関連企業が多く林立している。これらをコアに、京都府を半導体の一大集積エリアにするというのだから、事は穏やかではない。

 石破総理が掲げるこのサプライズのAI・半導体政策はなんと160兆円の経済効果を期待するというのだ。冗談ではない。日本のGDPは600兆円であり、10年後に160兆円が加われば760兆円の国になってしまう。そんなことになったら、世界中が「日本はやはり驚きの国だわ」と言うことになるだろう。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 取締役 会長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』(以上、東洋経済新報社)、『伝説 ソニーの半導体』、『日本半導体産業 激動の21年史 2000年~2021年』、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
サイト内検索