商業施設新聞
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No.982

企業美術館の難しさ


山田高裕

2024/11/19

 去る11月3日、すなわち文化の日は3連休となったこともあり、各地が観光客で溢れていた。文化の日ということで、自分も普段なかなか行けなかった文化施設に行ってみようと思い、千葉県佐倉市の「DIC川村記念美術館」に行ってきた。

 佐倉市にあるDIC川村記念美術館は、1990年に現DIC(株)が創業家の美術コレクションを公開するため創設した美術館。佐倉市の郊外という立地だが、佐倉駅からの無料送迎バスや、東京駅からの高速バスもあり、アクセスにはかなり配慮されている。

25年3月に休館を予定するDIC川村記念美術館
25年3月に休館を予定するDIC川村記念美術館
 収蔵品は欧州の近現代の作家を中心に多岐にわたっており、レンブラントやモネのような知名度の高いものから、抽象美術まで様々なものを揃えている。抽象美術の作品は、自分にはただキャンバスを黒く塗ったものや、紙を四角く切ったものとの違いがよくわからなかったが、そうしたものも含めての美術鑑賞なのだろう。また目玉の一つである、マーク・ロスコの壁画を変形七角形の壁に取り付けたロスコ・ルームは、部屋を照らしている控えめな照明と相まって圧迫感というものが強くあり、美術については門外漢な自分にもプリミティブな感情の動きというものを感じさせた。

 さて、自分がこのDIC川村美術館に行こうと思ったきっかけは、単に文化の日であるからだけではない。8月下旬、この美術館を25年1月をめどに休館するという発表があり、それが大きなニュースとなったのだ。その後反響の大きさを考慮してか、休館時期について1月から3月に延期するという発表もあったが、現在も地域住民や美術館関係者による休館反対署名などの活動は続いている状況だ。

 そもそもこの美術館が開館した1990年は、バブルの残り香が色濃かった時代でもあり、企業の社会貢献としてのメセナ活動(文化芸術活動支援)が盛んに行われていた。この美術館もそうした活動として創立されたのだが、近年は来場者数も伸び悩んでおり、社外取締役などで作る委員会から「東京への縮小移転」か「閉館」を前提として検討するように助言を受けたことにより、この休館騒動につながったという。

 企業は当然利益を追求するものであり、コスト面で運営が難しく利益が出ない活動については、その都度見直していくしかない。一方で、この美術館は開館から30年以上経ち、地域・美術界から高い評価を受けている施設でもあり、この美術館の価値、企業にもたらす利益というものは単純に短期的な収支で測れるのかという疑問も残る。こうした価値ある施設を集客につなげ、さらには商業的にも利益が見込めるスキームを構築し、持続的な運営が可能となる未来を願ってやまない。
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