小型・省電力の電源ICを主力に展開するファブレス企業のトレックス・セミコンダクター(株)(東京都中央区)は、傘下にアナログファンドリーのフェニテックセミコンダクター(株)(岡山県井原市)を擁するという独自の経営スタイルで、トレックスブランドのさらなる浸透を図っている。代表取締役 会長執行役員の芝宮孝司氏に話を聞いた。
―― 足元の景況感から。
芝宮 2024年は、スマートフォン向けのごく一部といった特定用途を除いて、当初想定されたほど需要が戻っていない。コロナ禍に伴う需要急増に対応するため、半導体メーカーの大半が締結した長期供給契約(LTA)によって在庫が業界全体で滞留してしまったことが主たる要因だと分析している。20年の売上高を100として、21~23年の業績を見てみると、当社を含めたアナログ半導体メーカーのほとんどがその3年間合計で400の売り上げを上げた。つまり、3年間で4年分を売り上げた。では、その3年間でどれだけの半導体を消費したか。それが今の在庫過多につながっているのだと思う。ただし、この7~9月期が本当の底だったのではとみている。ここに来て主に中華圏で在庫がかなりはけてきて、新規オーダーが出始めたからだ。当社もコロナ禍の当時は供給が追い付かず、これに対応するためLTAによって新たな生産キャパを確保したが、現在の生産キャパに見合う受注が25年から寄せられると期待している。
―― LTAを含め、近年は生産キャパの拡大に注力されました。
芝宮 当社のようなファブレスにとって、安定的に生産・供給ができるかは死活問題だ。確かに不況期には大きな負担にもなりうるが、コロナ禍の供給不足でそれを痛感した。傘下にファンドリーのフェニテックがあるとはいえ、当社は数ある顧客の1社に過ぎず、生産を委託できるのは15%ほどに限られる。
このため、新たに海外ファンドリー1社と長期生産委託契約を結び、8インチの生産枠を確保した。これは単なる生産委託ではなく、委託先の増設に当社が一部資金を充当し、独自の製造プロセスを構築したものだ。中高耐圧を含む新製品の展開に不可欠な製造ラインとして、フェニテックに次ぐ当社の基幹ファブになる。27年度中には当社向けの生産量を6倍に引き上げることが可能だ。
―― フェニテックの鹿児島工場でも生産能力を増強中です。
芝宮 空いていた5号館3階をすべてクリーンルーム化し、2月に竣工した。設備を現在搬入中で、アナログ電源ICの生産能力増強に寄与させる。25年度中には当社向けの供給能力が従来比3倍にまで高まる予定で、現在は当社のプロセスエンジニアを駐在させて多彩な製造プロセスを用意しているところだ。
―― 中長期方針は。
芝宮 車載、産機、5G、新エネなどに向けて化合物ベースのパワー半導体を事業化し、フェニテックの工場で生産を請け負う体制を強化したい。SiC、酸化ガリウム、GaNを必要とするニッチ用途かつ少量多品種のニーズを拾い上げ、顧客と一緒になって量産に結び付ける。当社の実力を見ていただくための標準品は一定程度生産するが、既存顧客のカスタムICの幅を広げられるような展開を心がけていく。
―― 今後の抱負を。
芝宮 中長期的な課題は、安定的に開発者を増やしていけるかどうかだ。上場したことによって、当社にも優れた人材が入っていただけるようになり、新卒も毎年安定して確保できるようになった。ただし、当社は分業スタイルではなく、開発者が特定の製品を継続して担当し、開発の方向性から次の製品のマーケティングまで行う体制をとっているため、人材の良い循環を構築する必要がある。アナログやパワーのさらなる進化にご興味をお持ちの方は、ぜひ当社に加わって次世代技術の可能性を一緒に追求していただきたい。
(聞き手・特別編集委員 津村明宏/高澤里美記者)
本紙2024年11月7日号1面 掲載