クラボウ(倉敷紡績(株)、大阪市中央区)では、6月に新任の代表取締役社長として西垣伸二氏が就任した。西垣氏は長年化成品事業部で半導体製造設備向け高機能樹脂製品を担当し、同事業を柱の1つに育て上げた立役者だ。これまでの取り組みや、今後の事業の方向性などの話を聞いた。
―― ご来歴から。
西垣 1986年に繊維の営業を志望して当社に入社したが、化成品事業に配属となり、立ち上がったばかりのフッ素樹脂プロジェクトの営業担当となった。以来、高機能樹脂製品事業一筋で事業の育成に取り組み、12年には現在の熊本事業所の前身となる熊本開発センター長、14年に産業資材部長、18年には熊本事業所長を兼任。22年には常務執行役員、23年に取締役・常務執行役員に就任し、今に至る。
―― 高機能樹脂製品事業の沿革について。
西垣 当初、素材事業としての立ち上げを目指していた。その間に新しいフッ素樹脂製継手を投入して大手メモリーメーカーの採用を獲得するなどの一定の成果はあったが、当時はメーカーとしての体制が不十分で事業として確立するまでには至らなかった。ただ、半導体製造プロセスで求められるクリーン度や流体制御の知見を得たこと、顧客からの開発受託や提案の実績を積み重ねてきたことが、現在の事業のルーツとなった。
2000年代後半に開発から生産、販売、品質管理に至る体制を整備し、12年には熊本開発センター(現熊本事業所)を熊本県菊池市に設立し、生産・開発体制を順次拡充している。これにより大手装置メーカーや機器メーカーを中心に採用が増え、成長軌道に乗ることができた。
―― 事業の強みは。
西垣 長年顧客の様々なニーズに対応してきたことで、材料に関する知見を蓄積できたことが挙げられる。フッ素系やスーパーエンジニアリングプラスチックなど、多様な材料を加工するノウハウと洗浄技術を持ち、顧客が求める形状、機能、寸法精度を実現することができる。より高いクリーン度や多機能、省スペース化を求める顧客に高く評価されている。また、グループ内外の全国約30社で構成されるサプライチェーンを約20年間で構築した。市況変動に伴う需要の波にフレキシブルに対応するとともに、生産と開発の短納期化を図っている。近年の半導体製造装置用部材の逼迫においても有効に機能した。
―― 生産体制の増強を進めている。
西垣 半導体市場は中長期的な成長が確実視されており、経営資源を集中させる方針だ。現在熊本事業所では2棟目(熊本イノベーションセンター)を建設中であり、25年4月の竣工を予定している。生産自動化を推進するほか、クラス100のクリーンルームや最新の加工機、分析機器を導入して生産・開発体制を強化する。また、寝屋川工場(大阪府寝屋川市)にクリーンルームや成形設備で構成されるフッ素樹脂素材の製造スペースを設け、10月に稼働する。材料からの一貫生産体制を構築するほか、フッ素樹脂のリサイクルにも取り組む。
―― 高機能樹脂製品以外の半導体市場向け製品の取り組みは。
西垣 前工程向けではウエハー洗浄装置、薬液供給装置、液体成分濃度計を、後工程向けでは各種工程フィルム用のベースフィルムを手がけている。継続的に事業拡大を図り、高機能樹脂製品を含む半導体関連製品において、業界で言われている10年後の市場規模倍増に負けない、事業拡大を目指したい。
―― 25~27年度の新中期経営計画について。
西垣 高機能樹脂製品はさらなる増強を目指す。熊本や寝屋川で増設した設備を活用するとともに、新たな加工設備や開発機器、人員の増強も図り、生産能力を現状比でさらに倍増させる計画だ。また、詳細は申し上げられないが高機能樹脂製品とそれ以外の製品で蓄えた技術を組み合わせた新製品開発も行っており、新規事業として立ち上げを視野に入れている。装置・計測関連では半導体ウエハー洗浄装置や液体成分濃度計を強化し、ビジョンセンサーはロボット向けに注力する。フィルム関連では大型押出機を導入し、さらなる事業拡大を目指す。半導体市場以外の分野としては、今後の市場拡大が期待できるインフラ検査やバイオメディカル分野の強化も行っていく。
当社はチャレンジ精神を創業以来のカルチャーにしており、創立130周年の18年には「面白いことやってやろう。」を当時の社長メッセージとして発信している。高機能樹脂製品事業もそれらのチャレンジ精神から生み出されてきたものであり、今後もさらなる成長に向けて新しいものを生み出して、市場や顧客に貢献していきたい。
(聞き手・副編集長 中村剛)
本紙2024年10月31日号1面 掲載