旧(株)日立パワーデバイスは、5月にミネベアパワーデバイス(株)に社名を変更し、ミネベアミツミグループで半導体事業を担う一角となった。グループ内のミツミ、エイブリック、ミネベアパワーデバイスの3社で2028年度に2000億円の売上高を目指すべく、新たな事業展開や「相合活動」(自社の技術や製品を「相い合わせる」ことで、様々な分野で新たな製品を創出する取り組み)に注力していく。ミネベアパワーデバイスの代表取締役 取締役社長である鈴木雅彦氏に事業戦略などを伺った。
―― 事業状況と取り組みをお願いします。
鈴木 23年度(24年3月期)の売上高は、計画値よりも上ぶれて480億円となった。自動車向けのお客様で長期契約を獲得できたことが大きな要因だ。当社の事業領域は、①IGBT・SiC、②高圧IC、③ダイオードの3つで、売上高に占める割合はそれぞれ3分の1ずつだ。
①では、鉄道/風力・再エネ向けとEV・自動車向けを手がけている。最も大きなマーケットは鉄道で、当社は世界トップ10に入る複数のお客様と取引があるが、インドのみが活況な市場であること、お客様の複数社購買の促進などで当社のシェアは落ちている。EVでは、メーンの中国市場の低迷により大きく計画を変えざるを得ない状況だ。
これらのマイナス要因をカバーすべく、他製品の開発・展開を進め、EVでは中国ハイエンド市場への集中と欧州市場での展開に注力していく。風力・再エネ向けでは、お客様と24年度から3カ年の開発が始まっており、27年度には風力・太陽光発電用パワーコンディショナー向けが業績に貢献する計画だ。
―― ②については。
鈴木 ②は堅調な業績が継続している安定事業だ。既存のお客様へ新製品を提案していくことでマーケットシェアの拡大を図る。例えば、ハイパワーのコンプレッサーを代用できるような製品開発を進めており、他社製品ではマルチチップで対応するものを、当社はチップ数を減らして実現し低コスト化を図る。
また、インドのエアコンメーカーとの開発を23年度から開始した。インドでは100Vの電力供給が不安定で通常の家電用ICでは対応できないため、現地向けの高圧ICをラインアップした。今後もモーター駆動をより正確にするものや、大電流に対応する製品などを拡充していく。インドのエアコン普及率はまだ20%程度で、今後の市場の伸びしろに当社製品を展開していく。
―― ③については。
鈴木 ③で最も大きなビジネスはガソリン車向けダイオードだ。今後は需要の減少が予測されるため、次世代の事業の柱として、電源向けで既存製品の2倍以上の電力効率を実現する新製品を開発中だ。原町工場(福島県)で26年に量産を開始する。既存製品と置き換えるだけで、電力効率が向上するだけでなく、お客様の設計工程も短縮可能な製品だ。
―― SiCについては。
鈴木 日立時代にTED-MOS(Trench Etched D-MOS)という、トレンチにフィンを形成して電流経路を確保する独自構造をとることで、耐久性と低消費電力特性向上を両立する製品を発表している。これが市場展開するまでの間に研究開発が急ピッチで進み、Fin-SiCという次世代品の開発に至った。さらにオン抵抗値を下げて効率の向上を図っている。同製品はグループ内での評価がすでに始まっており、電源向けで採用され、26年に量産を開始する見通しだ。
このほか、高圧ICをミツミのモーター制御IC向けに展開する予定だ。当社製ICによって制御ICの基板を小さくでき、モーターも効率良く静音で駆動させることができ、グループの製品に貢献できると自負している。さっそく「相合活動」に着手できており、グループ内にお客様がいることで、緊密な距離感のなかで製品展開できるメリットを実感している。
―― 生産面でのメリットもありますね。
鈴木 日立時代の外部委託比率は約5割で、全体の3割程度がミツミの千歳事業所への委託だった。ミネベアミツミでは、前工程、後工程ともにすべてグループ内でできるため、車載向けなど転換が難しいもの以外は、海外ファンドリーやOSATから順次引き上げる計画だ。前工程は野洲工場(滋賀県)を活用し、後工程はこれから拡張が始まるセブ工場(フィリピン)で対応していく。既存の臨海工場(茨城県)、山梨工場(山梨県)、原町工場はマザーファブとしての機能や開発投資などを行っていく。
24年度の売上高は前年度比8%増を計画しており、28年度には売上高700億円を目指す。ミネベアミツミグループの一員として、「相合活動」での貢献はもちろんのこと、オーガニックでの成長でも貢献していきたい。グループでは、28年度に売上高2.5兆円を目指している。そのなかで存在感を発揮するには、利益で貢献していくことが必須だと考えている。
(聞き手・澤登美英子記者)
本紙2024年10月17日号3面 掲載