電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第574回

太陽電池の市場拡大でも企業収益は悪化


供給過剰で価格が下落、淘汰が進む可能性も

2024/10/18

 太陽電池(PV)の導入が拡大している。2023年の世界導入量は前年比で倍増(466GW)したが、24年は23年比3割増の600GWの導入が見込まれている。もっとも、市場が順調に拡大する一方で、足元のPV企業の業績は厳しい。

 Jinko Solar、LONGi、Canadian Solarなど大手PVメーカーは24年度上期(1~6月)の売上高が前年同期比でマイナスとなり、利益についても、大幅な減益もしくは営業赤字となった。ポリシリコン(ポリSi)メーカーも24年度上期は厳しい事業環境が続いており、中国の上位4社は軒並み純損失を計上したという。

 PV企業の業績低迷の背景にあるのは、PV製品の価格下落である。ポリSiやSiウエハーの価格は、この1年間で6割下落し、PVモジュールの価格も5割下落した。価格下落の主な要因とされるのは過剰供給だが、生産調整が進まない限り、下期(7~12月)も大幅な価格の上昇は難しいようだ。

PV企業の収益悪化

 IEA(国際エネルギー機関)の調査によると、23年のPV世界導入量は最大446GW(SolaPower Europeは447GWと算出)で、22年(236GW)に対しては概ね倍増となった。IEAは最大市場の中国の導入量を最大277GW(SolaPower Europeは253GWと算出)に達したと見積もっている。

 24年はさらに導入が拡大する見通しで、SolaPower Europeのミディアム・シナリオでは544GWと算出しているが、BNEF(BloombergNEF)は592GWに達すると予測している。日本や南アフリカは導入が減速するが、インド、パキスタンの導入が加速するほか、多くの成熟市場でも導入が増える見通しだ。

 成長が続くPV市場だが、価格下落による企業収益の悪化が表面化している。BNEFの調査によると、直近のPVモジュールの平均価格は0.096ドル/Wで、過去最低の水準まで下落しているという。モジュール価格が下落したことで、新興市場の需要増が期待できる反面、シェア競争に直面するPVメーカーにとっては収益悪化の懸念が高まると指摘している。

価格下落で収益悪化(Jinko Solar)
価格下落で収益悪化(Jinko Solar)
 実際、24年度上期(1~6月)の大手PVメーカーの業績は低調だった。Jinko Solarの売上高は前年同期比15%減の65億ドルで、営業利益は2億360ドルの赤字(前年同期は3億8850万ドルの黒字)だった。LONGiの売上高は385億人民元で、前年同期比では4割の減収だった。Canadian Solarの売上高も同27%減の29億6400万ドルで、営業利益は同74%減の9600万ドルにとどまったが、事業の多角化が功を奏し、黒字が確保できたという。Trina Solarも24年度上期は売上高が前年同期比で15%減少したが、7400万ドルの純利益を確保した。

 上期のモジュール出荷量はJinko Solarが43.7GWで、前年同期比では4割の増加、Canadian Solarの出荷量は15.5GWで、前年同期に対して1割弱増加した。また、LONGiの出荷量は31.34GWで、前年同期比では2割弱の増加、Trina Solarは34GWで、やはり前年同期比では2割以上増加した。各社はモジュール出荷量が増えたが、価格下落を吸収できずに、売上高を大きく落とす結果となった。

ポリSi企業も軒並み赤字

 ポリSiメーカーも24年度上期は収益が大幅に悪化した。Daqo New Energyの売上高は6億3520万ドルで、前年同期から半減した。営業利益は前年同期が6億7770万ドルだったが、24年度上期は一転、1億6510万ドルの赤字となった。第1四半期(1~3月)は黒字を確保したが、第2四半期(7~9月)に損失が膨らみ、上期全体でも大幅な営業赤字となった。上期のポリSiの販売量は9万7069tで、前年同期に対して2割以上増加し、平均製造コスト(6.28ドル/kg)は1割以上低下したが、平均販売価格が前年同期から7割下落(6.39ドル/kg)した。

 中国の大手ポリSiメーカーのTongwei、GCL Technology、Xinte Energyも24年度上期は軒並み業績が悪化した。Bernreuter Researchの調査によると、Tongweiは上期に22万8900tのポリSiを出荷したが、4億4000万ドルの純損失になり、GCL Technologyは2億1300万ドルの純損失で、Xinte Energyも純損失を計上したという。

 独Wacker Chemieも24年度上期はポリSi事業が苦戦した。上期のポリSi事業の売上高は5億3200万ドルで、前年同期比では5割弱の減収だった。PV向けのポリSiの販売量が大幅に減少したことで、売上高も伸び悩んだ。ポリSi事業のEBITDAは9800万ドルで、やはり前年同期から半減した。

24年も出荷量は増加

 24年度通期(24年12月期)では、Jinko Solarが100~110GWのモジュール出荷を計画している。23年の出荷量は78.5GWだったが、24年は4割増と大幅に出荷量が増える見込みだ。Canadian Solarも24年度は32~36GWの出荷を計画しており、23年度の30.7GWから2割程度増える予定だ。ただ、売上高は65億~75億ドルにとどまるとし、前年比では減収になる見通し。

 Daqo New Energyも24年度は21万~22万tのポリSiの販売を計画しており、前年の20万tから1割程度増える見込み。なお、ポリSiの価格は9月の時点で4.5~4.8ドル/kgで推移しているが、多くのメーカーの生産コストを下回っていることから、収益確保は厳しい状況となっている。

 ちなみに、BNEFでは24年のポリSiの生産量の予測を196万tに引き下げているが、それでも900GWのモジュールを製造するのに十分な量になると分析している。

電子デバイス産業新聞 編集部 記者 松永新吾

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