(株)アルバック(神奈川県茅ヶ崎市)は、1952年、日本ではまだ真空技術が普及していなかった時代に創業、若き研究者たちが立ち上げたベンチャー企業であった。今日にあって、同社は半導体/電子部品製造装置、FPD製造装置、コンポーネント、一般産業用装置などを展開し、2026年に3000億円の売り上げを目標としている。とりわけここに来て、伸びが目覚ましい半導体分野の拡大を打ち出しており、メモリー、ロジック、パワーなど様々な分野の革新的装置の開発、量産を進めている。代表取締役社長の岩下節生氏に話を伺った。
―― 熊本のお生まれですね。
岩下 熊本県阿蘇市に生まれ育ち、県立熊本第二高校を出て、鹿児島大学理学部に進んだ。その後、英国留学などを経て、当時の日本真空技術の鹿児島工場で働くことになる。そして、85年1月にJETRO(日本貿易振興機構)の中国における展示会に出展したことを機に、31年間を中国で過ごした。
―― 中国の可能性、発展をよくご存じということですね。
岩下 東京からわずか2時間40分で行ける中国という国は、地政学的に見ても我が国と近く、目覚ましい経済成長を続けてきた。武漢・上海エリアだけで6億9000万人の市場があり、EUと匹敵する。これからも、中国市場は大切にしなければならないと考えている。
―― 売上高の構成比率は。
岩下 直近(24年6月期)の売り上げは2611億円で、このうち半導体・電子部品製造装置は959億円となっており、最大セグメントである。かつて隆盛を極めたFPD分野の売上高は551億円、その他真空ポンプ、真空計、ヘリウムリークディテクター、真空焼結炉、シリコンウエハー製造用拡散炉など多岐にわたる製品群を持っている。当社のコアは「真空技術」であり、これに磨きをかけて横展開を図ってきた。
―― 高シェアを持つ製品としては。
岩下 12年から6年の歳月をかけて台湾企業と共同開発したメタルハードマスクを製造する装置は、多くの半導体メーカーから高い評価をいただいてきた。5nm、3nmという先端の微細加工プロセスでは欠かせない装置だ。パワーデバイス向けのイオン注入装置も得意技の1つであり、中国で非常に高いシェアを持っている。6インチ、そして8インチと大口径化が進んでいるパワーの世界において、さらなる伸びが期待できる。
―― 女性および中高年活用について。
岩下 ワールドワイドの社員6200人強のうち約半分は海外である。国内の女性管理職の比率は4.2%とまだまだ低いが、海外では14.8%となっている。女性が働く環境が整備されている海外では、長い年月にわたって働いてもらえる。日本も女性が働きやすい環境を整備しなければ、世界の流れに取り残されるだろう。一方、中高年活用は大切なことだ。気力に溢れ、好奇心の強い人たちは、定年を過ぎてもぜひとも我が社で頑張っていただきたいと思っている。
―― 地域社会との関わりは。
岩下 国内の主力工場は鹿児島県や青森県八戸市にあり、地域と密着した活動が必要だと思い、注力している。茅ヶ崎本社でも工場のグラウンドや施設を開放し、ちびっ子サッカーチーム、バスケットボールチーム、身体の不自由な方の運動などに活用してもらっている。
―― 産学連携は。
岩下 18年に大阪大学のなかに「アルバック未来技術協働研究所」を開設した。21年には東京工業大学(現・東京科学大学)内に「アルバック先進技術協働研究拠点」を開設し、このほか台湾など海外においてもアクティブに産学連携を推進している。
(聞き手・特別編集委員 泉谷渉)
本紙2024年10月10日号1面 掲載