意外な事であるが、九州初!の半導体産業に特化した専門展示会が2024年9月25日、26日にマリンメッセ福岡で開催されたのである。出展社数は250社以上を見込んでいたが、それを上回った。そして来場者数は5000人を予想していたが、なんと初日で4300人が来場し、事務局としてはこれまた嬉しい誤算ともいうべき出来事であったのだ。この第1回〔九州〕半導体産業展(運営=(株)イノベント)は大活況であったと言ってよいだろう。
筆者が所属する産業タイムズ社もこの展示会に出展していたが、担当常務の中濱祐一は来客の多さにかなりビックリしていたのである。筆者も初日に1時間の講演をさせていただき、その後間を置かず2時間にわたるパネルディスカッションにも参加したのであるからして、まあとんでもない慌ただしさの中で一日を過ごしたのである。少しだけ会場視察もした際、あちらこちらから呼び止められて嬉しかったが、疲れは増すばかりであった。
パネルディスカッションは、モデレーターをKPMGコンサルティングの大木俊和氏が務められ、パネラーは筆者の他に九州経済調査協会の常務理事の岡野秀之氏、福岡リアルティ社長の小原千尚氏が参加された。熱い討議がされたのであるが、九州経済調査協会の岡野氏は少しため息をついてこう述べられたのだ。
「九州は日本全体の1割経済と長く言われてきました。しかしながら、九州の半導体生産額は、全国の50%以上のシェアをもっています。つまりは、九州の半導体集積はすごいものがあるのです。そして、熊本だけが多く喧伝されますが、九州全域に新たな設備投資の波が巻き起こっているのであります」
確かに、岡野氏の言うとおりなのである。ちなみに、九州の半導体装置の生産額も5000億円に達しており、日本全体の約20%を占めていると思われる。もちろん、半導体材料企業も多いのである。
熊本半導体フィーバーは、いまや全国に知られることであるが、10兆円の売り上げを持つ事実上の半導体生産の世界チャンピオン、TSMCが熊本第1工場(1.2兆円投資)、熊本第二工場(2兆円投資)を決めており、さらに第3工場建設の計画も浮上しているようなのである。昨年の国内の半導体第1位であったソニーも熊本に37万m²の新たな工場用地を取得し、お家芸のCMOSイメージセンサーの新工場をすでに着工している。
ところがどっこい、他県においても設備投資ラッシュのウエーブは広がっている。宮崎県下には、京都のロームが40万m²の土地を取得し、SiCパワー半導体の新工場を建設し、この分野で数年後に世界トップシェアを取ると息巻いている。長崎においては、京セラが半導体パッケージや製造装置用部品を強化するため、諫早に新工場進出を決めた。佐賀県においては、シリコンウエハー大手のSUMCOが2000億円を超える大型新工場建設を推進していくのだ。
大分県では、ジャパンセミコンダクターがシリコンファンドリー事業を拡大しようとしている。さらに、福岡県においては、ICパッケージの世界最大手であるASEが北九州に16万m²の新工場用地を取得し、過去最大級の工場を作る構えなのである。鹿児島では、日本では珍しいシリコンファンドリーを扱うフェニテックセミコンダクターが事業を拡大している。
ただやはり、人材不足の点は問題になるようだ。現在、九州エリアでは半導体産業関連に年間2000人以上が採用されているが、毎年3000人以上はどうしても欲しいという声が多かった。こうなれば、日総工産、フジアルテ、日研トータル、マイスティアなどの人材カンパニーが九州で大暴れするしかないな、と心中考えていたのである。
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泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 取締役 会長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』(以上、東洋経済新報社)、『伝説 ソニーの半導体』、『日本半導体産業 激動の21年史 2000年~2021年』、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。