電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
新聞情報紙のご案内・ご購読 書籍のご案内・ご購入 セミナー/イベントのご案内 広告のご案内
第594回

Rapidus(株) 取締役会長 東哲郎氏


目標感のある国家を作れ
「ニッポン半導体再び」の夢

2024/9/27

Rapidus(株) 取締役会長 東哲郎氏
 ニッポン半導体復活に向けての戦略会社、Rapidus(株)(ラピダス)の取締役会長の東哲郎氏は、半導体製造装置大手の東京エレクトロンの一大躍進に貢献した最大功労者として、国内外にその名を知られている。同社の会長兼社長兼最高経営責任者として長く活躍し、世界最大の半導体業界団体であるSEMIの国際役員会の会長、さらには日本半導体製造装置協会の会長なども歴任。現在は、国家半導体戦略カンパニー「ラピダス」の取締役会長として、国内外を駆け回る毎日である。また、最先端半導体技術センター(LSTC)の理事長の任にもある。今回はラピダスの果たすべきミッション、そしてニッポン半導体復活などについて話を伺った。

―― ラピダスの経済的効果について。
 東 これは大変な効果を期待できると思っている。北海道千歳市の広大な敷地に世界最先端の半導体工場が建てられるのであるから、装置・材料などの国内外企業が多く集積してくることは間違いない。ただ、熊本における世界最大の半導体メーカーである台湾TSMCの進出とは少し事情が異なる。熊本の場合は、装置・材料の企業も連動して進出し、新工場ラッシュとなっているが、既存の技術でいけるのであまり心配はない。一方、ラピダスの場合はまさに世界最先端の巨大工場が建設されるわけであり、装置も材料も最先端、場合によってまだ研究開発中のものも持ち込んで来るだろう。

―― ところで、東北の仙台エリアに台湾のPSMCが進出しますが。
 東 これはまた別の意味で素晴らしいことだ。PSMCは、東北大学が作り上げたMRAMなどのスピントロニクス半導体のシリコンファンドリーも担うと聞いている。私は東北大学のMRAM開発の世界的権威である遠藤哲郎教授とは、かなり前からのお付き合いがある。スピントロニクス半導体を開発し、生産する東北大学国際集積エレクトロニクス研究開発センターのクリーンルームは、東京エレクトロンが作り、寄贈したもので思い入れは深い。ラピダスとも何らかの形で連携していくことも十分に可能と思っている。

―― 2nm以下は本当にできるのかという声も。
 東 確かにそうしたネガティブキャンペーンの声は聞いている。「40nmしかできないニッポン半導体がいきなり2nmに行くことは不可能」「IBMのナノシート構造の技術を採用するというが、IBMは1回も量産していない」。こういう指摘はあるが、私は装置の世界に長く身を置き、歩留まりが良く、生産性が高いプロセスを国内外で多数立ち上げてきた。装置そして材料企業がこのラピダスの立ち上げにどれだけ心血を注ぐかがポイントであり、私としては十分に達成できると考えている。

―― ソニーやロームなどの日本の半導体企業にもインパクトを与えますね。
 東 そのとおりだ。ソニーは熊本に新たに37万m²の用地を取得し、世界トップシェアを持つCMOSイメージセンサーの大型工場建設に入っている。SiCパワー半導体で世界トップを狙うロームもまた宮崎に40万m²の新工場を立ち上げていく。ラピダスが世界一に挑戦する姿に連動するかのように、日本企業が元気を出してきた。これは実に嬉しい限りだ。

―― 「目標感のある国家を作る!」が持論ですね。
 東 自分たちが若かったころには、先輩たちが「ここへ向かって行け!」という目標感を示してくれた。生きがいを感じ、寝食を忘れて働いた。しかし、バブル崩壊以降、日本という国家は目標感を失った。若者たちに将来のかたち、未来への方向性を今こそ示すときだ。“ニッポン半導体再び!”の夢を乗せてラピダスが頑張れば、若者たちも、また中高年の人たちも必ず立ち上がる。私はそう信じてやまない。



(聞き手・特別編集委員 泉谷渉)
本紙2024年9月26日号1面 掲載

サイト内検索