電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第597回

世界の自動車市場はハイブリッド車に向かい始めているという異変


水素エネルギーの活用が次世代の方向性、エンジンは延命する

2024/9/27

 SDGs革命が進展するなかで、次世代自動車はひたすらEV(電気自動車)に向かっていくとの動きに変調が出始めた。何と2023年の自動車世界市場はHEV(ハイブリッド車)が約30%の高成長を遂げたのである。

 欧米において、この動きはとりわけ顕著で、EV礼賛の声は明らかにトーンダウンし始めたのである。欧州勢については、自動車王国であるドイツが凄まじいことを言い始めた。フォルクスワーゲンはEV市場の環境変化を受けて、ドイツ国内の工場を閉鎖することを検討、メルセデスベンツも30年までの完全EV化を撤回した。米国勢にあっては、ゼネラルモーターズがミシガン工場のEV投資を2年間凍結、フォードモーターも大型SUVのEVモデルを取りやめたのだ。

 世界を走る車は約12億台であるが、これがすべてEVになれば、原発を多数作らないといけない。そしてまた、石油・石炭の火力発電所を数多く建設することになり、CO2は出しまくり。全くもってエコではない。さらに言えば、リチウム電池を使う以上、バッテリーコストはどうにもならず、低価格のEVを供給することはほとんど不可能なのである。

 こうなれば、やはり燃料電池車がクローズアップされるのだ。または、水素エネルギーエンジン車という解もある。こうした情勢下で米国政府は50兆円の巨額を投入し、シェールガスから電解分離して水素を作るという政策に出るとも言われている。

 また、日本政府にあっては、中国の石炭を活用し水素を作るという開発を本気になって取り組む考えもあるという。

トヨタ自動車の燃料電池車「MIRAI」
トヨタ自動車の燃料電池車「MIRAI」
 自動車の世界チャンピオンであるトヨタの方向性はここに来て、正しいと言わざるを得ないだろう。同社は中国の北京経済技術開発区に燃料電池の新たな研究開発・生産拠点をこの夏に立ち上げたのだ。多様性の時代にあって、ユーザーが次世代のエコカーを選ぶべきであり、自動車メーカーがユーザーにこれにしろ!と押し付けるのではないというトヨタの思考回路は正鵠を得ていると言わざるを得ない。

 それが故に、トヨタはハイブリッド車、プラグインハイブリッド車、燃料電池車、水素エネルギーエンジン車のすべてに注力し、段階を踏みながら進んでいく考えなのである。

 中国のEVブームは例によっての補助金頼みであり、各国政府は凄まじい高関税をかけて中国車の輸出ラッシュに歯止めをかけていくのは、当然のことなのだ。価格破壊にもつながる中国の補助金政策は資本主義、民主主義の根幹を揺さぶる問題であり、看過できないと各国首脳は口をそろえて強く言い張る。

 それにしても、仮に水素エネルギーエンジン車の量産が可能になれば、これまでエンジン部品を供給してきた企業の将来性は必ずしも暗くはないだろう。そしてまた、AIを積み込んだコネクテッドカーになれば、各国の半導体技術の進展がカギを握るともいえるのである。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 取締役 会長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』(以上、東洋経済新報社)、『伝説 ソニーの半導体』、『日本半導体産業 激動の21年史 2000年~2021年』、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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