電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第593回

Rapidus(株) 取締役 専務執行役員 折井靖光氏


後工程でもう一度、世界一に
3次元実装で革新技術追求

2024/9/20

Rapidus(株) 取締役 専務執行役員 折井靖光氏
 ニッポン半導体復活に向けての戦略会社、Rapidus(株)(ラピダス)の取締役 専務執行役員で3Dアセンブリ本部長の折井靖光氏に話を伺った。

―― 大阪大学のご出身ですね。
 折井 大阪の池田高校を出て、大阪大学基礎工学部で物性・物理を専攻した。卒論は「半導体の超格子」というものであったが、「エサキダイオード」でノーベル物理学賞を取った江崎玲於奈氏を敬愛していた。その江崎氏はソニーからIBMに転職しており、自分もIBMに入社することを決め、滋賀県の野洲工場で働くことになる。

―― IBMに入ってすぐの仕事は。
 折井 IBMは当時メーンフレームの開発を進めていたが、世界で3カ所をセレクトし、銀行オンラインなどで使うタイプを全く同じフォーマットでスタートさせた。米ニューヨーク、フランス、そして日本の野洲がメーンフレームに使う基礎技術を開発するが、なんとラッキーなことに自分に回ってきたテーマは高密度実装であった。

―― フリップチップ実装の先がけですね。
 折井 そのとおりだ。当時はバイポーラICチップを100個、セラミックの中に閉じ込めて銅に直接つなぎ、ヒートシンクを使い、ヘリウムガスで冷やすというものであったが、これがサーバーコンダクションモジュールと呼ばれていた。そして、ポリイミド薄膜層をセラミック基板の上に付けたが、要するに今日のチップレットパッケージにつながる技術をかなりの昔に立ち上げていたことが、現在につながっていくことになる。

―― 最近は後工程の重要性が注目されています。
 折井 バイポーラからCMOSの世界に入っても、IBMのパッケージ技術はコンピューターの性能をリードしていた。これまで後工程に求められていたのは、とにかくコストを下げるということであったが、今やチップの性能を上げ、パフォーマンスを高めていくという面が重視されている。要するに「後工程が大切」という時代に変わった。これは大変なゲームチェンジといえる。

―― ラピダスは後工程に賭けていく。
 折井 前工程でいえば、2nm以下のプロセスがまさに革新的であるが、後工程においてはなんといっても3次元パッケージの技術の確立と量産にある。そしてまたチップレットが重要であるが、私自身はIBMに入社したときからこの基礎テクノロジーに関わってきた。ラピダスにあっても、3次元パッケージ、チップレットの世界を徹底的に追求していく。

―― 光電融合技術については。
 折井 これはとても大切なことだ。最近は、先端ロジックの周りにHBMというメモリーを複数置くが、インターポーザーの大きさが問題になる。81mm角のインターポーザーを数個乗っけるのであるが、コミュニケーションの帯域幅についてはエヌビディアの技術が使われている。そこを光でやる時代が必ず来ると思っている。光部品をインターポーザーの上に載せて、圧倒的なスピードとパフォーマンスを出す。ラピダスはこうした技術の領域も切り開いていく。

―― 産官学の連携については。
 折井 東京大学とはきっちりと連携を組んでいる。チップレットの中のインターフェースの開発をお願いしているが、これはラピダスではできない。またLSTC(最先端半導体技術センター)という組織とも深くつながっている。学の分野における先端半導体の開発は重要であり、日本の大学の底力を今こそ見せるときでもあると思っている。

―― 部下に対して示唆していることは。
 折井 かつての日本はプリント基板においても圧倒的な力を持っていた。また実装については、「JISSO」という言葉が世界のデファクトになっている。こうした先達たちが構築してきた歴史に誇りを持てと言いたい。もう一度、後工程の分野においても革新的な技術で日本が世界一を目指すという「強い志」が必要だ。


(聞き手・特別編集委員 泉谷渉)
本紙2024年9月19日号1面 掲載

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