電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第121回

太陽光発電は2020年代以降の基幹エネルギーになるのか


~年間150GWも想定され、日本市場はサプライズの伸び方~

2015/2/13

 次世代結晶シリコン太陽電池に関する産総研の技術交流会に招かれ、講演する機会に恵まれた。筆者の前に講演された資源総合システムの一木修氏は「太陽光発電は出世エネルギー」と論じておられ、2020年代以降は真の基幹エネルギーになる可能性を強く示唆された。つまりは、年間150GWの時代が来ることも充分に想定されるとしているのだ。ちなみに、国民1人あたりの太陽電池の導入量は、13年末段階ではやはりドイツがトップであり、433W/人となっている。次いでイタリアが288W/人、ベルギーが266W/人で続いている。4位はギリシャ、5位はチェコ、6位はオーストラリアとなっており、わが日本は第9位に位置しているのだ。

 さて、直近の13年の太陽光発電の世界導入量は38.4GWとなり、12年比で何と30%増を示した。14年についても、今のところ同じく30%増で50GW前後まで伸びたと推定されている。13年については、11.8GWを導入した中国が世界最大市場となり、当面トップを走っていくだろう。しかし、目を見張るべきは、人口が中国の1/10しかないわが国ニッポンが、2013年に6.9GWも導入し、2014年についても世界最高伸び率の50%を記録し、10.5GWまで押し上げ、中国に迫っているのだ。

 「太陽光は確実に儲けられるから入れるのだ」は、まさに金権主義の中国にあっては当然のことだが、日本の場合は少々事情が違う、と思われる。その背景には、世界にもまれな「もったいない精神」があり、省エネルギーは国民の課題、とする一人ひとりの高いモラルがあるからだ。一方で、東日本大震災を経験し、バカ高い天然ガスをいっぱい外国から買わされ、貿易赤字を積み上げている国の現状を憂うる国民の声がある。こうした状況を打破するために、一市民の立場で何ができるのだろう。そう考えた時に太陽光発電を入れたエコの生活がまぶたに浮かぶのが日本人の国民性なのだ。太陽光を積極導入している企業についても同じことであり、「採算性は二の次、三の次。自分たちでエネルギーを創り出し、お国に迷惑をかけない」というキーパーソンの声をどれだけ聞いたことだろう。


 ちなみに太陽光発電の生産の世界シェアは、中国勢が7割以上を握りトップを疾走している。かつて強かった日本勢のシェアはせいぜいが10%くらい。しかして負けたわけではないのだ。結晶シリコンでは、パナソニックがバックコンタクトとヘテロの接合を組み合わせたHBCセルを開発し、世界最高の交換効率25.6%を達成し、15年ぶりに世界記録を塗り替えた。すなわち、技術の高みで再び太陽電池の世界でチャンピオンフラッグを取り返そうとしている。また、CIGSという化合物系太陽電池で独自技術を確立した昭和シェル石油は、企業別ランキングで必ずや世界1位をとってみせると宣言している。

 石油600兆円、石炭200兆円、天然ガス300兆円、原発200兆円(トータル1300兆円)という世界のエネルギー市場で、太陽光が獲得した市場はたったの5兆~6兆円でしかない。それでも、太陽という自然の恵みを電気に変えるという方法論のすばらしさはあるわけであり、何だかんだいっても太陽光発電市場はこれからも高成長率で伸び続けるのかもしれない。

 ちなみに、太陽電池モジュールの供給メーカートップ10(2013年)を概観すれば、何と第1位インリー、第2位トリナソーラー、第3位JAソーラーとなっており、いずれも中国企業であり、要するに金銀銅のメダル独占状態なのだ。それどころか、第4位も中国のジンコーソーラー、第5位も中国カナダ連合軍のカナディアンソーラーとなっている。実にベスト10のうち中国および中国出資企業の数は7つもあるのだ。現状の太陽電池は中国勢が圧勝していることが良く分かるだろう。日本勢で上位にいるのは6位のシャープ、10位の京セラしかない。中国の場合、国家予算および地方行政府の予算を使ってでも太陽光を無理やり普及させるという目標があり、いわば力技で太陽光発電市場を牛耳っていく考えなのだ。しかしながら、産業としてみれば設備能力過剰は明らかであり、要するにほとんどが儲かっていない。ここに中国の問題は横たわっている。

 ある日本の太陽電池メーカー幹部はこうした状況に対し、苦虫を噛み潰したような顔でこう述べるのだ。
 「太陽光そしてLED照明など中国は官民総ぐるみで世界制覇に乗り出してくる。何しろ13億人の巨大マーケットがあるのだから、政府の指導力さえあれば、あっという間に立ち上がる。あなおそろしや、とはこのことだ。さらに加えて、半導体育成に2兆円もの巨額を用意するとさえ言っているのだ。こうしたインパクトのある政策を出すことは他の国ではとてもできない。様々な矛盾を抱えつつも、まさに“中華”の本格時代到来といえるのかもしれない」


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報 社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長 企画委員長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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