電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第595回

半導体業界の巨人「インテル」の伝説は今や揺らぎの時を迎えたのだ!


業績不振、大量リストラ、ファンドリー事業切り離しという有り様

2024/9/13

 1992年という年は、オリンピックイヤーにあたる年で、日本勢は冬季五輪でメダル7個、バルセロナ五輪でメダル22個を獲得する活躍ぶりを見せた。バルセロナでは女子200m平泳ぎで14歳の新星、岩崎恭子選手が五輪新記録で優勝し、日本に初めての金メダルをもたらした。

 岩崎選手はインタビューで「今まで生きてきた中で一番幸せです!」と答え、その愛くるしさは日本中を魅了したのだ。しかして筆者はその姿をテレビで見ていて、14歳で頂点を極めたこの人の人生はなかなか難しいものがあるのではないか、と考え込んでしまった。

 それはともかく、92年は別の意味で、エポックメーキングな年であった。世界半導体ランキングにおいて、米国インテルが前年比26%増という驚異的成長を遂げ、7年連続世界一の座にあったNECを抜き去り、初めて世界の頂点に立った。このインテルの躍進が意味するものは、やはり米国半導体の復活であった。

 そしてまた半導体製造装置の分野でも日米の逆転現象が生じていた。世界半導体製造装置メーカーのトップ10ランキングでは、これまで首位に君臨していた日本の東京エレクトロンを抜き去り、米国のアプライドマテリアルズが念願だった世界ナンバー1の地位を初めて手にしたのだ。

 インテルはその後、半導体の世界チャンピオンとして、長く不動の地位を獲得していく。直近の23年の世界ランキングにおいてもインテルは世界トップの座にあった。ほんの一瞬ではあるが、韓国サムスンがトップになったことはあるが、30年以上にわたって世界トップを続けてきたインテルの強さは並大抵のことではないのだ。

 それは何といっても、パソコンのCPU、サーバーのCPUをほぼ独占してきたという歴史が、インテルを不動の世界チャンピオンとして押し上げていったのである。

 ところが今日にあって半導体のアプリケーションを見れば、スマホが40%であり、パソコンは20%に落ちている。ちなみに自動車が10%、データセンターが10%、液晶テレビが5%、その他産業機器、家電、ロボット、医療産業などとなっている。パソコン向けCPUの世界においても、台湾TSMCの最先端プロセスを活用する米国AMDがインテルを激しく追い上げている。

 そしてまた、最大市場のスマホの世界においては、クアルコムなどのファブレス企業に敗れて、インテルはその分野で全くシェアを取れなかった。そうした情勢下でAIの時代が始まろうとしている。30年にはAI向け半導体が市場全体の6~7割を占めるという予想さえあるのだ。

 「AIを制する者は世界を制する」という時代が到来しようとしているが、AI向け半導体については、米国のファブレス企業であるエヌビディアが、圧倒的な強さを見せつけている。

業績不振が続くインテル、投資計画も一部見直しへ
業績不振が続くインテル、投資計画も一部見直しへ
 こうした中にあって、巨人であったインテルの存在感は著しく失われている。同社は24年4~6月期で2300億円の赤字を計上した。従業員の15%となる1.5万人を削減することになった。4兆円以上を投じると言われた米国のオハイオ新工場計画も延期になってしまったのだ。

 もちろん、インテルもこれからの主戦場となるAI向けチップ、次世代自動車向けチップの開発を続けているが、まだまだ画期的なものは出ていない。インテルの株価は全く不振であり、世界の半導体業界がインテルを見つめる視線はとても冷たくなってきたのである。

 ただ唯一の救いは、インテルが不採算の続くファンドリー事業を止める(切り離しを検討)方向にあるということだ。この姿勢が投資家たちの好感を呼び込んでいることだけは、確かかもしれない。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 取締役 会長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』(以上、東洋経済新報社)、『伝説 ソニーの半導体』、『日本半導体産業 激動の21年史 2000年~2021年』、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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